第8話 少年の舞

城から放射状に伸びる道。

その一つの通りを三人で歩く。


「なるほど、竜という存在には半信半疑だが、状況は飲み込めた」


そこで、古田は掌をカムリに向け、指を3本立てた。


「考えるべきは3つだ。1つは、竜と我が国の魔女様は知り合いか、なんらかの因縁がある。2つめは、おそらく竜は魔女様を殺すつもりか、何か仕掛けるつもりだ。ただし何らかの理由で山から動けない。だからお前を使った」


衣更姉は「なるほど」と顎に手を当てているが、そこまでに関してはカムリも至っていた考えだ。古田のような男があえて言うほどのことには思えない。


だから、肝心なのは3つめだった。

その証左に、古田は少し間を空けて、言い淀んでいるようだった。


「そして3つ目だが、これは永啓様が弟を探していることに繋がるはずなんだが、、、言ってもいいか」

「何か言いにくいことなのでしょうか?」

「ああ、、、だが、、、くそ。俺はこういうのはあまり得意じゃねぇんだ、、、あのな、、、」


頭を掻きむしりながら、古田が口を引きかけたとき、


「ねぇ、あそこから誰かこっちを見てる!」


衣姉が大声で割って入り、そのまま髪を振り乱して走って行ってしまった。


「ああ!?どうしたあの女!」


古田は舌打ちをしながら衣更を追いかける。

カムリもまた、あまり聞いたことのない衣更姉の声に驚きつつ、二人の背を追った。




衣更の足は速かった。

二人が彼女に追い付いたとき、そこはもう通りの終点、城の外堀であった。

三の丸の正門を正面にして、衣更は立ち止まっていた。


「嬢ちゃん、何がどうしたってんだよ」


古田がそう不平をこぼしたときだった。


「来るっ!!!」


カムリは叫びつつ、父の形見である短刀を腰から引き出して、衣更の前に出た。


カンッ、、、!


弾かれ地に落ちたのは弓矢であった。

おそらく外堀の向こう、三の丸から放たれたものである。


二射目、三射目、その後もおよそ驟雨しゅううのごとく降り注ぐ。

その死の雨の中を、およそ十二の少年が雨音に遊ぶように舞っていた。


古田と衣更に届かんとする弓矢のみを的確に落としていく。


「くっ、、、ふっ、、、やぁっ!!」


ときに跳躍し、ときに伏せながら、まさに天狗のような軽快さであった。

古田はその人外の動きに圧倒されながら、しかし頭は働かせていた。


「おい弟!いったん撤退だ、俺は直接永啓様から下知げじされてる!何かの誤解があるだろうから手紙を出す、ここは引くぞ!」


弓矢とカムリの狂乱はなお止まらない。

その背中は、すでに息が上がっていた。

腕や足にも、すでに血が流れている。

ただ、それでも声を上げた。


「くっ、、、誰かがこっちを見ています、、、」

「あ!?だからなんだってんだ、この数相手にして無理に進む必要はない!」


それに、と古田は思う。

この外堀の幅はかなりある、誰かが見ているかどうかなんて分かるはずもない。


「相手の数は大したことないです。これは、おそらく人が放っているものではないです、、、っ!」


自動式射機。

古田はその存在を知っていたが、田舎者のカムリは知る由もなかった。


カムリは短刀を振るいながら、


「呼んでいる気がする、そんな気がするんです!」

「ああ、わかったよ!だったら向こうに渡って、直接言ってやる!1日余して連れてきてやったよって!」

「カムリ、大丈夫、、、?怪我、、、」


と、衣更は場にそぐわぬ声を出した。


「大丈夫です。行きます。僕の背に隠れて!」


三人は三の丸の正門にかかる橋を進む。


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