第7話 達成と疑念
ジラド領国。
国の東側はサラハト山脈が縦に走り、西は海洋、北と南は河川で区分されている。
港から扇子状に広がる城下町、その「
カムリの第一目的は、まず城に向かうことであった。
衣更はそれを「策なし」と言ったが、彼にとっては天上の人に会うに等しい。
策を講じるよりもまずは実直さを、そして氷山厳花の希少性、有用性を説くしかない。
あるいは、最終手段として竜の脅威を伝えるか、、、、
「でも、それはしたくないなぁ」
カムリは直訴の準備を終え、心地よい日差しを肌に受けながら旗籠屋を出る。
竜は僕の仇だ。
母さんと父さんを殺した。
だからこの手で復讐したい。
とても単純で、矛盾はない。
だけど、、、。
竜の手は、その氷の恐ろしさの中で暖かかった。
その感触が今も体に残っている。
それに冷静に考えてみても、永啓様が自ら先陣に立って竜と対峙することは考え難い。
まずは先方の性格や思考をしらなければ、と決意を新たにする。
「よぉ、カムリ」
その呼びかけに、僕は振り向いた。
そこにいたのは、古田志知であった。
「なんでしょう。古田さん」
「兄と呼べ、兄と」
「あ、、、兄上、、、」
僕は少し恥ずかしかった。
一時の、話の流れからの冗談かと思いきや、存外彼は兄弟の契りを楽しんでいるらしかった。
それにも関わらず、僕には兄と呼ぶのを強いて、自分は「カムリ」と名前を呼ぶのはなぜだろうか。
「それでいい。で、俺は俺の強運に今、恐れ
兄上は、よくわからないことを唇の端を上げてにやにやしながら言っている。
「たまたま見つけました、じゃ不合格かもしれねぇしなぁ」
そこまで聞いて、僕ははっとした。
僕は、兄上にまだ名乗っていない。
ただ、呼びかけれて振り向いた。
それで僕がカムリだと確信した。
でもなぜ、僕を探していた?
見つけたのはたまたまらしいが、何のために。
「弟よ、お前がなんで永啓様に追われているかてんで知らないが、とりあえずおとなしく城まで連行されてくれ。まぁ、危なそうだったら助けてやるよ、多分な」
カムリはそこで初めて、目の前の男の顔を詳しく見た。
細く鋭い目は、その利発さを体現し、華奢な体にはどこか捉えがたいような、常に緩やかに変化しているような印象を受ける。
実直さというよりも、蠱惑的な魅力。
カムリは一瞬の思考の後、すぐに判断を下さざるを得なかった。
「兄上、僕も永啓様に用事があります。連れてってください」
まっとうにぶつかっても成功率が低い。
それならば、不測の事態にみずから飛び込む方が、確率はあがるのではないか。
永啓様は僕に会いたがっている。
古田という男を利用してまで。
カムリの即答に近い返事に、古田もさすがに驚かざるを得なかった。
「どういうこった。弟はそもそも永啓様に会いに行くつもりだった、、、?この町に来たのは永啓様に会うためってこったろ、、、。あいつはそれを知ってて俺に探させた、、、?どうなってやがる、、、」
ぶつぶつ思案するのは古田の癖である。
それは生来の癖でもあったが、彼を飼っていた
「坊主よ、、、戦場においてお前に手と足はいらん。そんなものは誰もが持っている。止まれ。誰もが敵に向かって吠えるとき、お前は背を向け、己の心に息を吹き込め。お前が守りたいものは、他人の四肢に守らせろ。」
古田志知は、大股にカムリに近づいた。
「城に向かう。その道中ですべて話せ。すべてだ」
そう行ってカムリに背を向け歩き始めた。
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