第4話 魔女と新入り
「
「話は聞いている、通せ」
ジラド領国領主付きの魔女である彼女は
役職は
その
「それで、何を献上したいと申す」
永景は正座して客人を迎え、怯え切った一人の職人に声をかける。
「こちらにございます」
そう恐る恐る差し出したのは、漆塗りの化粧箱であった。
蓋には貝殻もあしらってある。
「確かに逸品だが、わざわざこれを?」
そう言って永景が紐を解き、蓋を開けると、中からは絢爛な春の花々が溢れ出、零れ落ちた。
それをじっと
「なるほど、これは私が花を嫌いだと知ってのことか?」
その一言は、鋭い一矢となって職人たちの額に刺さった。
「そんな、いえ、そんなはずは、滅相もございません」と一人。
「、、、、、」ただ黙り込み、沙汰を待つものが一人。
そして最後の一人が、泰然として口を開いた。
「、、、わたくしのしたことでございます。」
「そうか、お前がしたというのはどういうことだ」
「永啓様が花を嫌っていることは周知のことでございます。それを承知ですり替えたということでございます。その化粧箱は本来領主様の奥方への土産でございます」
「なんのために入れ替えた」
「我が主、
そこで永啓は眉にかかった前髪を払った。
「もういい。言いたいことは分かった。つまりは忌み嫌うものでもその価値を測れということであろう?あるいは測れて当然であるだろう、と」
「僭越ながら左様にございます。この無礼、私の命に代えて償いましょう」
「お前だけの命では足りんな」
「それでは何を、、、家族だけにはどうかご慈悲を」
そこで永啓はつまらなさそうにそっぽを向いた。ため息もついたようだった。
その横顔、耳の形まで、職人たちは一生忘れないよう凝視した。
恐怖の中にあっても、いやそうであるからこそ美しいものは美しいのである。
「お前、名は?」
「
「そうか、お前はその命とその一生の時を私に尽くせ」
「承知、、、、は?今なんと」
永啓は今度こそ皆に聞こえるようにため息をついて立ち上がった。もう用はすんだとでも言いたげに。
百八十はあるその上背は、小さな顔もあって、より高く見えた。
「どうせ全て柄田の手の上だ。お前たちが差し出せと言われたその箱は、最初から間違ったものになっている」
その一言で志知は悟ったが、他二人は蚊帳の外である。
「どういうことでございましょうか」
と、そのうち1人は我慢できずに聞いた。
「これ以上説明するのは腸が煮えくりかえるどころか干上がってしまいそうだが、要するに、こやつが主を褒めたように、主もこやつの頓才を私に示したかったのだろう。相思相愛の良い主従関係なことだ」
それでも理解の及ばない二人が、入れ違いになったもう一つの箱を開ける。
そこには何も入ってなかった。
「だから、今回の土産はこいつだ。そういうことだ!」
永啓は足を踏み鳴らしてその場を去った。
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