第12話 対戦のゆくえ
「サーキットは、新兵訓練の時と同じだ。終始実戦形式で取り組むこと。二人とも、準備はいいね?」
「はい」
「……はい」
カルロス先輩に向かって二人並び、軽く体をほぐしたあと。私は即答を返し、アルバスは全く気乗りしない形で返事を返した。
「アルバス様」
「……なにかな」
「この後、天気が荒れるそうです」
「……うん?」
私の話の先がわからないのだろう。
アルバスは首を傾げた。
すでに集まりつつあるギャラリーが、周りをドーナツ状に取り囲む。事の顛末を聞いたのか、ガラントは「あの馬鹿」と片手で顔を覆い、ベンは黙って腕組みをしていた。
囃し立てるものはいないが、ざわざわと興味深い様子で皆が注視している。
それでも、ダグラス中尉のひたと見据える視線以上に、私を奮い立たせるものは無かった。
「雪が降ると、外周は辛いですよ」
「……」
「情けも、容赦も不要です。どうぞ全力でお願いします」
「……言ってくれる」
「気を悪くしたなら謝ります。後ほど」
ピキ、と何かが音を立てた気がしたが、隣は見なかった。カルロス先輩がニヤリと笑い、片手を上げる挙動だけを見つめる。
「用意……はじめ!」
カルロス先輩の手が振り下ろされたと同時に、ガランガランと、午後の課業を始める鐘が響いた。
バッと伏せ、軍特有の逆手腕立て伏せから始まり、スクワット、腹筋と段々と回数をこなしていく。
はじめは何食わぬ顔で進めていたアルバスだったが、綱登りあたりで端正な顔を歪ませはじめた。
その感情は、驚愕。
「なっ……!」
するすると太いロープを登りあげ、てっぺんから跳躍で着地する私を凝視している。
そのまま棒立ちになり、唖然とする彼にカルロス先輩が声をかけた。
「魔持ちって知ってるかい?アルバス」
アルバスは答えない。
ただ肩で息をしつつ、私を目で追う。
周囲にも言って聞かせる声量で話し始めたカルロス先輩を私は気にせず、懸垂へと移って行った。
「貴族だから分かると思うけど、魔導士達はわざと魔物の肉を食べて、魔力を増強しているだろう?
妙に静かなドーナツの中心で、カルロス先輩が続ける。ドーナツなんて可愛いものから、雰囲気がどんどん離れていった。
「美味しいよな、あれ。俺たちのような姓のないほどの貧民は、強くなろうだとかそんな大層な理由じゃなく、食うために森に入って魔物を狩るんだ。森火鼠や角ウサギなんかをさ」
凄みを感じる語り口。
私は綱登り横に設置された登り板でボルタリングを始める。
「食える所は少なく、筋張っていてエグ味もきついし、小骨も多い。でもそのおかげで、微量ながら魔力が溜まる」
登り板の頂上から、ひたとアルバスを見据えた。
「俺もアリアも身体能力向上の魔持ちだよ。閣下。とりわけアリアは孤児院の子どもらの為に沢山の獲物を狩り、毎日森で生き抜いてきた。一人前の狩人であり、騎士さ」
「……ハハッ」
乾いた笑いをもらすアルバス。
私は周りからの視線を一身に受けて着地する。
まるで台風の目のように静まり返るそこで、笑みを浮かべていたのはカルロス先輩とダグラス中尉だけだった。
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