第4話 これからの身の振り方を
教会を出るころには雨が上がり、空が白み始めていた。
「時間はかかるかも知れねえけどよ、ツテがある。こっちでも調べておいてやる。だからお前も、準備しておけ」
「わかった……ルフ兄、ありがとう」と、思わず騎士を目指す前までの喋り方に戻ってしまった私を見て、少し目を丸くしたルフタは、グシャリと私の髪を撫でた。
「おう、気をつけるんだぞ」
そう破顔する兄貴分に、少々居心地の悪さを覚えながらも、スラム街を後にする。
ルフタが示してくれたように。
悪夢を、天啓に変える。
そのために、まずは今がどういう時期なのか把握しなければ。宿舎に帰ったらすることを頭で考えながら、石畳を歩いた。
この一年間にあったことを、覚えている限り整理してみよう。
私の体感では一年前。回帰した今の時点ではもうすぐ、城内をざわつかせるような辞令が出る。
貴族の言う派閥がどうなっているのか詳しくはわからないが、軍部の上層が一気に変わるのだ。風通しを良くするためだとかなんとか言って。
それに巻き込まれる形で、私は
普段なら身元の割れた由緒正しい貴族しか配属されないそこに、私が入ったのは異例中の異例だ。
今思えば王女殿下の輿入れに併せて、使い捨てもしくは共に帝国へやっても問題のない
我が国と帝国は戦争こそしていないが、あまり安心できるような間柄ではなかったから、緊急時には一番に切り捨てられる存在が、必要な状態だったのだ。恐らく。
今回の輿入れも和平を主な目的としたものだし。
王女殿下は気の良い方で、分け隔てなく私を騎士として扱ってくれた。
元平民。それも貧民からの叩き上げということで、同僚達には初め遠巻きにされて居たが、礼儀正しく教えを乞い、嫌がられる仕事を率先してやるうちに下位貴族の方々から徐々に会話を交わすようになった。
業務内容が貴族の常識をベースになっており、学ぶことが多岐に渡ったのだ。
上位貴族の方々とは、結局最後まで仲良くなれなかったけど。向こうもきっと、自分たちにとって幼少期から常識としていたことを全くできていない私にどう接すればいいのかわからなかった部分もあるのだろう。そう願いたい。
というのも、めちゃくちゃ虐められていたのだと今になって気づいた。ただ、ぬるいというか。スラムに居たころよりもいくらか優しかったからほとんど気づかなかった。
権力を笠に虐げられたらお手上げだったけれど、騎士としての性分か、割と一対一での苦言が多かったように思う。理不尽なことも少なかった。
恐らく入団試験の一般枠は貴族枠と違って実力主義だったことも一因だろう。
それらは先輩からのありがたい助言のように受け取っていたし、ご飯さえ食べれていたらそれだけで大体のことはいいかと思える
ただときどき備品を壊されたりするのだけは困って、やめて欲しいと頭を下げたけど。王女様の目に入る場所でそんな事やったもんだから、翌日には近衛が一人減ったりした。
初めての大きな仕事は、春の王女の婚約式。
帝国の第二王子が改めて顔合わせに王国を訪れた。婚約式は滞りなく進み、王女の側近数名と近衛のベテランが王子と共に帝国へ渡った。婚姻後の王女の住環境を整備するために。
この国の南東側に位置する帝国は、その広大さゆえここと気候が異なるのだ。
婚約式からは、安全上の都合で王女があまり出歩けなくなった事もあり、王都周りの公務が中心になっていった。
人が減り、個々の仕事量が増え、忙しい者の分も小間使いや清掃をしていると、隊員と会話する場面が増える。それで他の部署に顔も売れた。
この時はまだ隊長級だったダグラス団長とも、そうして知見を深めた。
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