再び塔へ3

「それで今度は……王の墓所?」


「要するにお墓を探せってことだねぇ」


「言い方変えてるだけで全部探せってことじゃん」


 次の試練も見つけろとはいうが探せということと変わりない。


「墓所の場所は分かってるんですか?」


 薫が圭に尋ねる。

 シタチュフリスガの巣の位置はネットに大体の場所が載っていたのでその付近を探した。


 同じように墓所の場所も分かっているのならかなり楽になる。


「ざっくりとした場所は分かってるよ。ただ……」


「ただ、なんですか?」

 

「あっちに山が見えるだろ?」


 圭が視線を向ける先には山がある。

 十階に入ってきた時に正面に見えていた山だ。


「うん、見えるね」


「あの山のどこか……にあるらしいんだ」


「あの山のどこか……」


 みんなも同じく山に視線を向ける。

 十階に来てから山を背にするように移動した。

 

 山から離れたのにも関わらずそれでも山は大きく見えている。

 さらにはよく見てみると山の頂上には雪まで積もっている。


 つまり見えている山がそれだけ大きいということなのである。


「山……という情報だけなんですか?」


「それがそうなんだよ……」


 わざわざ情報を書き込むのに山とだけ書くような人はいない。

 しかし情報が載っているサイトには山とだけ書いてある。


「どうやら王の墓所は移動するようなんだ」


 その理由は王の墓所が発見される場所がその都度変わるからであった。

 広くて十階も登らなきゃいけないためにモンスター狩りのためにここまで来る人はあまりいない。


 十階まで来る人はほとんどの場合塔を攻略しようとしてくるのである。

 当然調べられる情報は調べる。


 山に王の墓所があるという情報もすでに共有されているもので少し前には発見された場所も書いてあったりした。

 しかし実際にそこに向かってみると王の墓所はなかったのだ。


 最終的には全く違う場所から見つかった。

 そうしたことが数回あって結局王の墓所は時間が経つと移動してしまうという結論に至ったのである。


 だから山とだけしか書いていない。

 今どこにあるのかは実際に足を運んで探してみるしかない。


「なるほどね……」


 圭の説明を聞いて夜滝はため息をついた。

 覚醒者として強くなりだいぶ歩き回るようになって体力もついた。


 けれども元より外歩きが好きな人ではない。

 真っ白に見える山の頂上に王の墓所があったらと考えるとゲンナリしてしまう。


「まあ今のところ山の頂上に王の墓所があったことはないらしいよ。あっても中腹、大体の場合が麓にあるみたいだ」


「このまま真っ直ぐいって見つかればいいんだがな」


「見つからなきゃ日を改めるっていう手段もあるよ。時間が経てばまた場所が変わるからあっさり見つかることもあるってさ」


 どうしても見つからない時は一度諦めるという選択肢がある。

 日を改めれば王の墓所の場所は変わる。


 試練もリセットはされないのでそのまま王の墓所を探すことができるのだ。

 一回目じゃ見つからなかったけれど二回目で簡単に見つかったという事例もある。


「気軽に探そう。見つかればそれでいいし、見つからなきゃ一度帰ればいいんだ」


 世界を救うためには塔を攻略することは大事である。

 しかし焦って物事を進めることほど危険なことはない。


「とりあえず山のほうに行ってみよう」


 ーーーーー


「意外と遠かったな……」


 山が大きいが故に近くも見えたのだけど向かってみると案外遠かった。

 何回かシタチュフリスガにも襲われてちょっと面倒であった。


「ここから探していくのかい……」


 夜滝は嫌そうな顔をして山を見上げる。

 近づいてみると山はさらに多く見え、ここから王の墓所を探すのはなかなか骨が折れそうであった。


 山の傾斜はそれほどキツくもなく覚醒者の身体能力を持ってすれば登っていけそうな感じがある。


「まず山をぐるっと回ってみよう」


 王の墓所は山の麓にあることも多い。

 運が良ければ軽く見て回るだけでも見つかるはずだ。


 山を登っていくのは最終手段としてひとまず山の麓を一周してみる。


「おっ、またシタチュフリスガ……じゃない?」


 少し山を登ったところにモンスターの姿が見えた。

 シタチュフリスガかと思ったけれど少し姿が違っていてカレンは目を細めてモンスターのことを凝視する。


『シタチュフリスラ

 シタチュフリスガが進化したモンスター。

 進化の過程で足を一本失ったが腕が生えてきた。

 全体的な身体能力の向上に加えて腕が生えたことによって武器を扱う知恵も得た。』


「シタチュフリスラ……だって」


 シタチュフリスガは四本足の下半身から蛇の上半身が伸びていているモンスターであった。

 対してシタチュフリスラは三本足の下半身から蛇の上半身が伸びていて、さらに二本の腕が生えていて剣まで持っている。


 調べた情報ではシタチュフリスガの変異体と書いてあったけれど圭の真実の目で見た情報では進化したものであった。


「シタチュフリスラ……またややこしい名前しやがって」


「シタチュフリスガってのも長くて言いにくいのにね」


 一文字だけ名前が変わるのはややこしい。

 シタチュフリスガという名前も長くて面倒なのに一文字違うだけの進化したモンスターがいるのはまた面倒であると波瑠は小さくため息をついた。

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