再び塔へ2

「ただ結局あの変なのは倒さにゃいけないな」


 離れたところから見た限り鍵なんてものは見当たらない。

 鍵がどんなものなのか知らないが探そうと思えば巣に接近しないと見つけられないだろう。


 となると巣で寝ているシタチュフリスガを避けて通ることはできない。

 安全に探すためにも倒す必要がある。


「隠密に仕留められるかな? 薫君、お願いできるかい?」


「分かりました」


 薫は杖を圭に預けると腰につけていた弓を取る。

 動きの邪魔にならないよう背負っている細身の矢筒に手を伸ばして矢を一本抜き取る。


「いきますよ……」


 薫が弓に矢をつがえて引く。

 なんてことはないようにも見える動作であるが薫の弓はモンスターの素材で作られていて弦もかなり強く張ってある。


 誤って発射する瞬間に手でも出そうものなら戻る弦で腕でも切れてしまうかもしれない。


「はっ!」


 手前の近くにいるシタチュフリスガに狙いを定めて薫が弦から手を離す。

 寝ていて動かないシタチュフリスガに向かって矢が飛んでいく。


 覚醒者である圭たちでも目で捉えるのが難しいほどの速度で矢は飛んでいってシタチュフリスガの蛇の頭に当たった。


「うわぁ」


「さすがだな」


 当たった矢は突き刺さるだけでなくシタチュフリスガの頭を突き抜けてしまった。

 蛇頭の鱗は意外と硬い。


 しっかりと剣で切れば切れるけれど突き刺さるだけならともかく突き抜けてしまうまでの威力があるのは驚きだった。


「……ただそう簡単にもいかなさそうだな」


 次も、と思ったのだけど一体やられたことによって他のシタチュフリスガが起きてしまった。


「もう一体ぐらいならいけそうです」


 起きて一体やられていることには気がついたがどこからやられたのかということには気づいていない。

 今ならまだもう一体狙うことができる。


 薫が素早く次の矢を手に取って次を狙う。

 暇さえあれば矢を撃っていた。


 戦いにおいて何か一芸でもあれば身を助けることがあるかもしれないと薫も必死に練習を続けていた。

 実際の戦いではサポート役が主なので弓矢を使うことは少ないが、いざ任されたらしっかりと矢を当てる自信がある。


 頭を撃ち抜かれて倒れる仲間を覗き込むシタチュフリスガに向かって矢を放つ。


「いくぞ!」


 薫の矢がシタチュフリスガの頭を撃ち抜いた。

 圭たちは一斉に動き出した。


 シタチュフリスガが攻撃に動揺している間に襲いかかる。


「やっ!」


「ピピ!」


 波瑠とフィーネが競い合うようにシタチュフリスガに切りかかった。

 動揺のためか、あるいはまだ寝起きだからか動きが悪い。


 最初の襲撃でシタチュフリスガの数を大きく減らし、戦いの主導権を握ることができた。

 元々それほど驚異的な相手でなかったのであっという間に倒せた。


「俺と薫君で魔石取り出すから鍵みたいなもの探してくれるか?」


 試練としては鍵を探さねばならない。

 しかしお金にもなる魔石も捨てておくには惜しいものである。


 だから圭と薫で倒したシタチュフリスガを軽く解体して魔石を取り出し、その間にみんなで鍵を探してもらうことにした。


「そっち押さえて」


「はい」


 圭はナイフを取り出してシタチュフリスガの体を切り裂く。

 さすがはC級モンスターなだけあって鱗が硬いのだけどナイフにしっかりと魔力を込めて突き刺すようにしながら切り開いていく。


 深めに切り裂いていくとナイフの先に切り裂けないような硬いものが当たる。

 ナイフを差し込んでグリッとえぐるように回転させる丁寧にナイフの先に当たった硬いものを取り出す。


 赤黒い色をしたそれは魔石であった。


「タオルです」


「ありがとう」


 薫からタオルを受け取って圭は魔石を取り出して血を拭う。


「あんまり……綺麗じゃないですね」


「うん、そうだな」


 魔石というのは割と透明な色をしていて水晶のような綺麗さがあることも多い。

 だがシタチュフリスガの魔石は濁ったような色をしていてあまり綺麗な石には見えなかった。


 圭と薫はシタチュフリスガの体の中から魔石を取り出していく。

 圭はちょっとだけ蛇なら食べられるかなと思ったがお腹でも壊したら怖いので試すようなことはしない。


『シタチュフリスガの巣を探せ! クリア!

 シタチュフリスガの巣から失われた鍵を見つけ出せ! クリア!

 王の墓所を見つけろ!


 シークレット

 王の遺品を見つけろ!』


「おっ!」


 魔石を取り出していると目の前に表示が現れた。

 誰かが鍵を見つけたのだろう。


「ピピー! ミツケター!」


 圭が顔をあげると手に古い鍵を持ったフィーネが走ってきていた。


「よくやったな」


「あー、ずるーい!」


 圭が頭を撫でてやるとフィーネはニマニマと笑顔を浮かべる。

 その後ろではフィーネに遅れをとったシャリンが悔しそうな顔をしている。


 仕方ないが今回鍵を見つけたのはフィーネの方である。


「むむむむ……」


「エッヘン!」


 一瞬危ないかなと思ったけど頬を膨らませるシャリンと胸を張るフィーネはそんなに険悪でもない。


「あと一体だから先に魔石を取り出しちゃおう」


 先に鍵探しの方が終わってしまった。

 ただ残るシタチュフリスガも一体だけなので圭は魔石を取り出す。

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