アツアツ、モフモフ6

「こりゃヤバそうだな」


 一度落ち着こうなんて思っていたのに巨大なレッドフォックスが水の壁を突き破って中に入ってきた。


『レッドフォックスレックス

 過酷な生存競争を生き抜いてレッドフォックスの王になった。

 群れの中でもとりわけ強い個体が神に力を与えられて一つ上の存在となっている。

 八階に現れた異質な存在であるフェンリルを強く敵対視している』


「レッドフォックスレックスねぇ……」


 何か有益な情報はないかと真実の目で見てみたけれど特別有益な情報もない。

 ただ相手が強そうだということだけが分かった。


「こっちだ!」


 レッドフォックスレックスが圭の肩に乗るフェンリルを目掛けて走り出した。

 盾を構えたカレンが間に割り込みながらレッドフォックスレックスに魔力を向ける。


 邪魔だと言わんばかりに鳴いたレッドフォックスレックスは前足を振り下ろした。


「う……らぁっ!」


 木の幹のような太い前足から繰り出される攻撃は受けずとも強いことが分かりきっている。

 敵が強ければ強いほど正面から攻撃を受けていけないのだとカレンも学んでいた。


 カレンはレッドフォックスレックスの攻撃を盾で防ぎながら体ごと回して上手く受け流した。

 腕に痺れるような衝撃はあったけれど正面から受けるよりかなりマシだろうとカレンは思う。


 カレンが作ってくれた隙を狙って圭たちが一斉に攻撃を仕掛ける。

 レッドフォックスレックスは避けることもなく攻撃を受ける。


「……硬いな!」


 想像していたよりも毛質が硬くて深い傷を与えられなかった。


「フィーネモヤル!」


 圭と波瑠だけでなくフィーネも大鎌を振り回す。

 フィーネの大きな鎌はレッドフォックスレックスの毛を切り裂いて深めに傷をつけた。


 鋭い痛みを感じたレッドフォックスレックスは飛び退いて圭たちと距離を取ると大きく咆哮した。


「……まあそうだよな」


 レッドフォックスレックスの毛が煌々と燃え出した。

 レッドフォックスといっているのに燃えないのかとひっそりと疑問には思っていた。


 やはり燃えるのだなと圭は苦い顔をする。

 これまで普通の赤い毛だったので戦える感じがあった。


 けれど全身炎に包まれたようなレッドフォックスレックスは見ているだけでも強い熱気を感じさせ、近づくだけでも火傷してしまいそうだった。


「来るぞ……!」


 レッドフォックスレックスが走り出すと火の塊が突っ込んでくるようにも見える。

 やはり狙いはフェンリルで圭の方に突っ込んでくる。


「させるかよ!」


 カレンが盾で体当たりする。

 レッドフォックスレックスの体の周りはすごい熱気でクールダウンドリンクの効果が続いている今でも熱さが体に沁みてくるようである。


 カレンの体当たりでレッドフォックスレックスの体がわずかに流れて圭は流れたのと逆方向に飛んで攻撃をかわす。


「水はどうだい?」


 圭を追いかけようとするレッドフォックスレックスの横から水の塊がぶつかった。

 レッドフォックスレックスが弾き飛ばされて転がっていく。


「よっしゃ!」


 効果がありそう。

 そんな風に感じて波瑠は小さくガッツポーズした。


「……まだ平気そうだな」


 レッドフォックスレックスは悠然と立ち上がった。

 魔法が当たったところの炎は消えていたがレッドフォックスレックスがブルルと体を震わせるとまだ火がついた。


 あまりダメージを受けているようには見えない。


「結構力入れたんだけどねぇ……」


 しっかり魔力を込めた魔法がしっかり直撃した。

 それなのにレッドフォックスレックスは平気なように見えて夜滝も眉をひそめた。


「あんなん倒せるのか?」


 流石に焦りが生まれてくる。

 レッドフォックスレックスの強さは圭たちよりも明らかに格上である。


 倒せないことなんてないだろうと思っていたのに想像よりも遥かに厳しそうだなと思い始めてしまった。

 

「……でもやるしかない」


 相変わらず水の壁の外は集まったレッドフォックスによって赤くなっている。

 仮にフェンリルを差し出したところで無事に返してくれるとは思えない。


『約束の道が繋がりました!』


 フェンリルが圭の肩から降りてレッドフォックスレックスの前に立ちはだかる。

 抱えられるぐらいのサイズのフェンリルと四足で立っているだけで圭と同じ大きさぐらいもあるレッドフォックスレックスは比べ物にならない。


「……なんだ?」


 急に天から光の柱が降りてきてフェンリルに降り注いだ。

 その瞬間フェンリルの体が大きくなり始めた。


「キュ、キューちゃんが……」


 大きくなっていくフェンリルを見て波瑠が驚いている。

 いつの間に名前まで付けたのだと圭はひっそりと思っていた。


 光の柱の中でフェンリルはレッドフォックスレックスと同じぐらいの大きさになった。

 レッドフォックスレックスが吠えるとフェンリルも対抗する様に吠える。


「なっ……」


 フェンリルがレッドフォックスレックスに飛びかかって噛み付く。

 レッドフォックスレックスも同じくフェンリルに噛みついて二体はもみくちゃになって地面を転がる。


 地面が揺れるほど二匹は激しく戦う。

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