アツアツ、モフモフ5
「おっと!? なんだ、俺か?」
「あー! ズルい!」
「ズルいって言ったって……」
フェンリルはぴょんと飛び上がると器用に圭の肩に乗った。
そして圭の頬に自分の頬を擦り付ける。
柔らかくてシルクのような感触のフェンリルの毛がとても気持ちがいい。
波瑠がフェンリルを取られたと怒り顔を浮かべるけれど圭がやったことではないので怒られても困る。
圭が撫でてやるとフェンリルは目を細める。
可愛いなと思う。
「むー……あっ、気持ちいい」
むくれ顔した波瑠が手を伸ばしてみるとフェンリルは素直に撫でられた。
触ってみると可愛らしく手触りがいいので怒りが一瞬で消し飛ぶ。
「可愛いもんだな」
圭の肩に乗ったままのフェンリルはみんなに撫でられている。
「この子は守ってあげなきゃね!」
なんとなく庇護欲が駆り立てられて波瑠はやる気を出している。
「約束の地ってどこだ?」
試練の表示を見ながらカレンが首を傾げる。
守るのはいいのだけど肝心の約束の地というのがどこなのか分からない。
この赤茶けた八階の中で約束の地のような場所を見た記憶はない。
レッドフォックスに囲まれているし、きっとレッドフォックスは追いかけてくるだろうから約束の地を探し回るのも大変そうだ。
「おっ?」
波瑠にお願いして探してもらおうかと思っていたらフェンリルが動いた。
フェンリルの額から光の玉が飛び出してきた。
「な、なんだ?」
光の玉はふわふわと浮いていて圭たちから少し離れたところで止まっている。
圭たちは顔を見合わせる。
「まさか……あれについて行けっていうのか?」
「キュー!」
圭の言葉に反応するようにフェンリルが鳴いた。
「……行ってみよう」
この場に留まっていても夜滝が魔力を消耗するだけになる。
圭たちは光の玉を追いかけてみることにした。
光の玉は圭が近づくと離れていき、一定の距離を保っているようだった。
そのまま光の玉の方に行くと光の玉は水の壁から外に出ていってしまった。
「夜滝ねぇ、一気にお願い」
「そろそろここにいるのも飽きてきたからねぇ」
夜滝が両手で杖を持って集中を高める。
小さい水滴がポッと空中に発生してみるみると大きくなっていく。
瞬く間に夜滝の背よりも大きな水の塊になった。
「いいかい?」
「いつでも、みんな走るぞ!」
「爆ぜろ!」
夜滝が水の塊を撃ち出した。
水の塊は水の壁を突き破って飛んでいき、集まっていたレッドフォックスの真ん中に落ちて爆発した。
派手に水を撒き散らしてレッドフォックスがバッと水から逃げるように離れていく。
その隙に圭たちは走り出した。
光の玉を追いかけてレッドフォックスの間を駆け抜けていく。
「げっ! やっぱ来るな!」
夜滝が水の壁を解除した。
レッドフォックスは地面の水を避けるようにしながら走って圭たちのことを追いかけ始めた。
「く……走りながらだと意外と辛いねぇ」
一々立ち止まって戦っていてはまた囲まれてしまう。
レッドフォックスの方が足が速くて追いついてくるのだけどその度に夜滝が水の魔法で追い払う。
雑多に水の魔法を放つだけでも相手が怯むので魔力としては余裕があるのだけど走りながら魔法を使うのはなかなか楽なことではない。
「オラァッ!」
あまり夜滝にばかり負担はかけられない。
カレンが大地の力で後ろに壁を作り出す。
水の魔法ほどの効果はないけれど少しはレッドフォックスの追跡を鈍らせることができた。
「どこにあんだよ!」
いつまで光の玉を追い続ければいいのかとカレンが悪態をつく。
「光の玉が止まりました!」
走っていると光の玉がピタリと止まった。
「ここは……」
光の玉が止まったのは周りが小高くなっている小さい盆地のような場所で、そのど真ん中であった。
後ろからはまだレッドフォックスが追いかけてきているのだけど光の玉は動かなくなってしまった。
「キューーーー!」
フェンリルが圭の方から降りて鳴くと光の玉が真上にものすごいスピードで飛んでいってしまった。
『シークレットクエスト!
フェンリルの卵を守れ!
フェンリルに認められろ! クリア
フェンリルが出てくるまでレッドフォックスを倒せ! 50/50 クリア
フェンリルを約束の地まで運べ! クリア
約束の時を待て!』
表示がまた現れた。
どうやら今いるところが約束の地というところらしく、試練が更新されていた。
「まーた……分かりにくい」
約束の時っていつなんだよと叫びたくなる気持ちを抑えると代わりにため息が出てくる。
「……なんだ!?」
レッドフォックスが約束の地に入り込んできているのでとりあえず夜滝に水の壁を張ってもらって耐え忍ぼうと思っていたら大地を揺るがすような咆哮が響き渡った。
「あれ!」
波瑠が指差した方を見ると約束の地を囲んでいる小高くなっているところに巨大なレッドフォックスがいた。
レッドフォックスは大型犬ぐらいのサイズなのであるが、巨大なレッドフォックスは大型のトラぐらいのサイズがある。
「夜滝ねぇ!」
「あ、ああ!」
レッドフォックスも迫ってきている。
このままでは危ないと圭が声をかけると夜滝はハッとして水の壁を作り出した。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます