アツアツ、モフモフ4

「少しずつ倒していこうか」


 何にしてもこんなに囲まれていたら逃げることも簡単ではない。

 ある程度戦う必要もあるので少しずつ引き込む形で倒していくことにした。


「夜滝ねぇお願い!」


「はいよ!」


 夜滝が杖を振ると噴き出している水の一部が止まって水の壁に隙間ができた。

 唸って待ち受けていたレッドフォックスが隙間からなだれ込んでくる。


「ほい!」


 再び杖を振るとまた地面から水が噴き出してレッドフォックスは中に入れなくなる。


「しゃー、こいや!」


 レッドフォックスはフェンリルの卵に向かっていく。

 カレンが魔力を差し向けても無視してくるので挑発することをやめてカレンも攻撃することにした。


「はっはっはっー!」


 カレンはメイスでレッドフォックスの後ろから殴りつける。

 圭たちも知恵を働かせた。


 レッドフォックスがフェンリルの卵の方に行くのならフェンリルの卵を少し囮にしつつ守ってやればいいと考えた。

 カレンのスキルを使って卵を土で覆って押し固めた。


 それでもレッドフォックスがフェンリルの卵に向かうかちょっとした懸念はあったけれど、レッドフォックスは土に覆われていてもフェンリルの卵を狙った。

 そのおかげで前足で掘るようにしてフェンリルの卵だけを狙うレッドフォックスを後ろから倒すだけの作業でよくなった。


 万が一を考えて少しずつレッドフォックスを引き込んでいるが、同じことの繰り返しで簡単に倒せた。

 

「ふぅ……」


 レッドフォックスを倒し続けて42体となった。

 倒すだけでも体を動かす。


 カレンが額の汗を手の甲で拭った。


「一度休憩してまたクールダウンドリンクを飲んでおこうか」


 八階の攻略を始めてからだいぶ時間が経っている。

 クールダウンドリンクの効果も切れかかって弱くなっていた。


 レッドフォックスも50まであと少しとなっている。

 このまま終わりとも限らずシークレットクエストが続くこともあり得るのでクールダウンドリンクをまた飲んでおく。


「ぷはぁ〜、ほんとこいつら諦め悪いな」


 クールダウンドリンクを飲むと体が冷えていく感覚が広がる。

 こうしてまた飲んでみると効果が切れかかっていたのだなと実感する。


 未だに水の壁の外にはレッドフォックスが大量にいる。

 もう40体近く倒しているのにあまり減ったように見受けられない。


「クールダウンドリンクだけじゃなくてしっかり水分補給もしておけよ」


「あいよ」


 動いていれば汗もかく。

 持ってきた冷たい飲み物で喉も潤して武器の血なんかを拭く。


 薫も放った矢を回収している。


「それじゃああとちょっと倒すか」


「おっし!」


「やりますかー!」


 休憩もほどほどにシークレットクエストを再開する。


「いくよ〜」


「オッケー!」


 夜滝が水の壁に隙間を開けてレッドフォックスを引き入れる。

 少し多めに引き入れて終わらせてしまおうと夜滝は慎重にタイミングを見計らう。


「ここ!」


 10体ほどのレッドフォックスを引き入れたところで夜滝は水の壁を閉じた。

 カレンがグッと盾を構えるけれどレッドフォックスはカレンの横を通り抜けていってしまう。


 フェンリルの卵を守るために盛り上がった土に飛びかかってガリガリと掘り出す。

 最後まで圭たちのことは完全無視である。


「ちゃっちゃとやっちゃうか」


「そうだね」


 拍子抜けな感じはあるが楽なら楽でそれに越したことはない。

 さっくりとレッドフォックスを倒していくと11体いた。


『シークレットクエスト!

 フェンリルの卵を守れ!

  フェンリルに認められろ! クリア

  フェンリルが出てくるまでレッドフォックスを倒せ! 50/50 クリア

  フェンリルを約束の地まで運べ!』


「フェンリルの卵、じゃなくなってるねぇ」


「そういえば出てくるまでってなるな」


「ということは……」


 シークレットクエストが更新されて圭たちの前に表示される。

 次のシークレットクエストはフェンリルを運べとなっていて卵という文言が消えていた。


 一つ前のものもフェンリルが出てくるまでとなっているのでそのことから考えるにフェンリルは生まれるのではないかとみんな思った。


「……やばくね?」


「カ、カレン! 早く卵を!」


 みんなが一斉に卵の方を見た。

 カレンのスキルによってフェンリルの卵は今土の中に固められている。


 このままではフェンリルが生まれてくることができないのではないかと焦る。


「わ、分かった! どわっ!?」


 フェンリルの卵を土の中から出そうとカレンが手を伸ばした瞬間土が爆発するように弾け飛んだ。


「ウマレタ」


「キュー!」


 土の中から真っ白な毛をした四足歩行のモンスターが飛び出してきた。

 それが何なのかは誰でもわかる。


 フェンリルであった。


「か、可愛い〜!」


 土の中から飛び出してきたフェンリルはシュタッと地面に降りると圭たちのことをジロジロと観察するように見ていた。

 白くてふわふわしたフェンリルを見て波瑠は目を輝かせている。


 確かに波瑠のいう通りフェンリルの見た目はとても可愛らしかった。


「おいで〜!」


 トテテと歩き出したフェンリルを迎えるように波瑠が腕を広げる。


「あれ?」


 しかしフェンリルは波瑠をスルーした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る