世界を救いたい神々2

「ただ世界のカケラを繋げるためには神側にもポイントだったり、繋げる世界にも魔力が必要だったりするの」


 ポイントなんて言葉を聞くと本当にゲーム感覚で行っているのだなと圭は苦々しく思う。


「そしてあなたに伝えたいことは色々あるの。でもこうしてあなたに会うだけでも私はものすごくポイントを使ってるのよ。黒羽が頑張ってくれたからどうにか会えているの」


 気づくとマーシェントアーケケインの髪がまた黒くなってきている。


「あなたの目のこととか生い立ちとか、色々あるけど今回あなたに伝えたい裏切り者のことよ」


「裏切り者……」


 真実の目のことも気になるし生い立ちのこととはなんだと聞きたいが、裏切り者のことも気になる。


「裏切り者にも色々いるのよ。もちろん外の世界の神に力を与えられてこの世界を裏切った者やこの世界の神でも向こうについたものがいるの」


「……この世界を裏切ってどうするんですか?」


「ゲームが終わって世界が滅びると、この世界の記憶はカケラとして残るのよ。そうしてこの世界のカケラの神となり、新たなゲームに参加しようとしているのね」


 こちらの世界の神なのに裏切るものがいるなんて信じらなくて圭は頭が痛くなった。

 このまま世界が負けて崩壊すれば神は一部を残して消え去ってしまう。


 しかしゲームに参加する神々に認められれば失われた世界のカケラの支配者たる神になれるのだ。

 そしてカケラを利用してゲームに参加して上手くやることができれば新たなる世界の神になることも不可能な話ではないのだ。


 少なくとも世界と共に滅びることはなくなるのだ。


「ただ神が直接何かの命令を下すことも簡単ではありません。裏切り者に指示を出すことも難しく、そのためにこちらが裏切り者を見つけ出すことも簡単ではありません。ただ1人色々とやってくれた者がいるのです」


「色々やってくれた人がいるんですか?」


「そう。神に届く才能がある者を手にかけてきた裏切り者がいる。今は神からの指示がなくて鳴りを潜めているけれどあなたも気づかれると狙われるかもしれない」


「そんなことを……誰なんですか?」


「人類の裏切り者、神に届く才能を消してきたのは……北条勝利」


 マーシェントアーケケインの髪が一気に黒くなった。


「やっぱり情報を伝えると消耗するわね」


「き、北条勝利って……あの?」


 マーシェントアーケケインは黒くなった髪を平然といじっているが圭は大きな衝撃を受けていた。

 圭が知っている北条勝利は1人しかいない。


 日本の英雄、大和ギルドのギルドマスターであるA級覚醒者の北条勝利である。


「そう、あの北条勝利よ」


「な、なぜ彼が人類を裏切って……」


「それは知らないわ。でも彼はなんにもの神に届く才能を人知れず消してきたの。彼に力を与えたのは外なる神々アウターゴッドよ」


「そんな…………」


「他にも裏切り者はいるけどね。気をつけなさい。あなたは神の間でも有名になりつつある。強くなりながらも力はある程度隠すのがいいわ」


 気づいたらマーシェントアーケケインの髪はまた一房を残してほとんど黒くなっている。


「私たちの方でもあなたにヒントを与えようと思ってる。だから頑張って。この世界を他の世界と同じようにカケラにしないで……」


「でも裏切り者だからどうしたら? 倒すったって……」


 圭が全く手も足も出なかったリウ・カイと北条は戦った。

 つまり北条の強さはそれほどのものであるということになる。


 たとえ強くなっていっても倒せるようなビジョンが見えない。


「きっと大丈夫。あなたは幸運だから」


「その幸運もよく分からなくて……」


「そのうち分かるわ。あと私が消えたらこの子は気絶するから支えてあげて。私が注目するからあなたのこと気になってるみたいだしね」


「まさかやたら絡んできたのって……」


「私のおかげかしら?」


 すこーしだけショックだと圭は思った。

 黒羽のような美人が何もなしに圭に好感を持つはずがない。


「でも嫌いならそんなことにはならないから脈はあるわよ。能力も高いしあなたのそばに置いたら役立つかも」


「まああなたのスキルも関わってるかもね」


「どういうことですか?」


「ふふ、時間切れ。倒れるから、お願いね」


 スキルとはなんなのかとまた謎が増えた。

 黒羽が目を閉じて体が糸が切れたように倒れて圭が慌てて抱きしめるように支えた。


「村雨さん?」


 大丈夫なのかと見つめているとパッと目を開けた黒羽と視線があった。


「…………大胆」


 抱きしめられている。

 そのことを理解した黒羽は頬を赤く染めた。


 脈がある。

 そんなことを言われてはちょっと意識してしまう。


「ご、ごめん!」


 離れようにも黒羽は圭に体重をかけているので手を放すこともできない。

 

「ううん、大丈夫。この距離嫌いじゃないよ」


 意外とストレートに口に出す黒羽に思わずドキリとしてしまう。


「お話、できた?」


「……神様のこと知ってるのか?」


「うん、ちょっとだけ話したことがある」


「そうなのか」


「…………このまま私ともお話、する?」


「え、まあ……それでも」


「おそーい! 中で何して…………」


 黒羽が男を呼び出した。

 このことはヴァルキリーギルドに大きな衝撃をもたらしていた。


 みんな相手は誰だとか、どんな奴なんだとか気にしていた。

 黒羽が悪い男に騙されやしないかと心配していたのである。


 圭に突き刺さる視線も黒羽が呼び出した相手だからみんな圭のことを注目していたのである。

 そしてトレーニングルームの前では女性たちが心配そうにソワソワと黒羽の話が終わるのを待っていた。


 仮に黒羽を泣かせたら圭をぶっ飛ばすつもりだった。

 けれどいくら待っても出て来やしないので赤城が痺れを切らして鍵を開けて中に入って来てしまった。


「あっ……」


「えっ?」


 そこにはトレーニングルームの真ん中で抱き合う2人。


「お前ら……トレーニングルームで何やってんだー!」


 A級覚醒者赤城ミキはその能力が高いが故に出会いがなかった。

 まさか先を越されることがないだろうなんて思っていた黒羽が男と抱き合っていたことに赤城は大きな衝撃を受けた。


「黒羽から離れろ!」


 赤城の拳に炎が渦巻き、圭に殴りかかる。

 なんで! と思うけれど圭にそんな拳を防ぐ手立てはない。


「ダメ」


 赤城の拳を防いだのは黒羽であった。

 圭の懐から素早く立ち上がると赤城の拳に自分の拳をぶつけて弾き返したのだ。


「この人は、大事な人」


 世界を救うかもしれない人。

 しかしそんなことを知らない赤城や騒動を見ていた女性たちには全く別の意味に聴こえていた。


「ミキが相手でも傷つけちゃダメ」


「くっ……」


「ギルドマスター、嫉妬は醜いですよ〜」


「うるせぇ! …………黒羽泣かせたら承知しないからな!」


「……誰か説明させてほしいな」


 北条勝利が裏切り者。

 大きな衝撃と共に圭は黒羽のお婿さん候補とヴァルキリーギルドの中で認識されることになったのである。


「くそっ! 私だって良い相手がいるはずなんだ!」

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