世界を救いたい神々1

 モンスターウェーブから数日後圭はヴァルキリーギルドを訪れていた。

 黒羽から話があるから来てほしいと連絡があったからである。


 何の話だろうと思いながらもひょっとして、なんていう小さい期待もある。

 1人で来てくれというので夜滝たちにも言わないでヴァルキリーギルドに来ていた。


 ヴァルキリーギルドは一般の事務員に至るまで女性である。

 別に男子禁制でギルドの建物に入ることを禁じられているわけではないが、それすらも何となくはばかられてしまう。


 ちゃんとした格好をしないと入ることすらできない。

 そんなこともネット上では言われているのでしっかりスーツで訪れた。


 仮にネットの話がウソであってもスーツなら失礼には当たらない。

 ヴァルキリーギルドに入ると一瞬視線を向けられる。


 中には本当に女性ばかりだなと感心してしまう。


「すいません」


「はい、本日はどういったご用件でしょうか?」


 圭が話しかけた受付も当然女性である。


「白月黒羽さんに呼ばれて来ました、村雨圭です」


「あっ……」


 用件を告げると受付の女性は驚いたように圭の顔を見た。


「……はい、少々お待ちください」


 なんだろうと思ったけれど周りもなぜかざわついて圭は困惑する。

 何があったのか聞きたかったけれど受付の女性は内線電話をかけはじめてしまったのでただ突っ立っていることしかできない。


「お待たせいたしました。地下のトレーニングルーム3番にてお待ちしているようです。右にありますエレベーターから地下3階に降りて3番のトレーニングルームに向かってください」


「分かりました……」


 なんだか周りの人からの視線が突き刺さるような気がしている。

 ギルドに入ってきた時にはなんともなかったのに何かしてしまったのだろうかと不安になる。


 圭はその場を逃げるようにして言われた通りエレベーターに乗り込んだ。


「気にしすぎかもしれないしな……」


 女性しかいないギルドということで男性が苦手な女性覚醒者も多くいるという。

 もしかしたらそうした人の視線だったのかもしれないと思うことにした。


 エレベーターが地下3階について圭は3番のトレーニングルームを探す。


「これか」


 大きく3と書かれたプレートが掲げられた部屋があった。


「失礼します」

 

 圭は一応ドアをノックして中に入る。


「いらっしゃい」


 トレーニングルームの中には動きやすいジャージ姿の黒羽が立っていた。

 圭を見て黒羽は微笑む。


「ええと……今日はなんのご用で呼び出したんでしょうか?」


 黒羽がジャージに対して圭はスーツ。

 なんとなく不釣り合いな感じになってしまった。


「話したいことがあったの」


 黒羽はトレーニングルームの鍵を閉めた。

 何をするつもりなのか分からなくて圭も緊張で鼓動が速くなる。


「話したいこと、ってなんです……あれ?」


 黒羽は艶やかな黒髪の中に一房白い髪が混じっているという不思議な髪色をしている。


(白い髪……あんなにあったかな?)


 しかし鍵を閉めて振り返った黒羽の頭を見て圭は違和感を覚えた。

 黒羽の白い髪が増えていると思ったのだ。


 黒羽の白い髪は一房しかなかったはずなのに今は三房ほどになっている。


「増えてる……?」


 それだけではない。

 黒羽の白い髪が増えていっている。


「…………はじめまして、村雨圭。最も不幸で、最も幸運な者よ」


「……なんだって?」


 色々と聞きたいことが一瞬でたくさん出てきた。

 はじめましてとはどういうことなのか。


 そしてなぜ最も不幸で、最も幸運な者という呼び方をするのか。

 圭は驚きに目を見開き、黒羽は穏やかに笑った。


「君は一体……」


「私は黒羽で黒羽でない。私は黒羽に力を与えた神のマーシェントアーケケイン」


「えっ?」


 いつの間にか黒羽の髪は真っ白に染まっていた。


「か、神って……」


「そうよ。あなたももう会ったことがあるでしょ? ゲームに反抗する神に」


「それは……」


 圭はメシルのことを思い出した。


「時間がないから単刀直入に話させてもらうわね。私はこの世界の神なの。だからこの世界が滅亡することは望んでいないの」


 全く予想していたのとは違う話に圭は驚きを隠せないがこれはしっかり聞かねばならないと思った。


「この世界の状況は聞いているでしょう?」


「はい」


「このゲームに勝つためには神に届く才能が必要よ。これからこの世界に訪れる忘れられた世界のカケラには神に届きうる力を持ちながらも失敗した者たちが多くいる」


「……どういうことですか?」


「ゲートと呼ばれるものは本来他の世界だったものなの。ゲームに負けて世界が滅んだけれどゲームに囚われて世界の一部がゲームの道具として利用されているの。神々には残されたカケラから自分の世界を復活させるために参加している者もいるのよ」


 理解ができないと圭は思った。


「これはゲームだと言ったでしょ? 世界を滅ぼされた神は自分の世界のカケラを送り込み、相手の世界と戦わせる。そうしてゲームに貢献するとポイントが貰えるの。そうしてポイントを貯めたり、あるいは自分の世界のカケラが相手の世界を滅ぼすと自分の世界のカケラをまた世界として復活させるができるの」


「……ゲートは他の世界だったということですか?」


「そうね。そしてゲートとして自分の世界を提供して自分の世界を取り戻そうとしているのよ」


 もちろんそうではない強い世界を持っているような神もいるとマーシェントアーケケインは言った。

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