大人たちの会話
「やはりモンスターの種類が増えています。太羽島で新たなブレイキングゲートが出現しているようです」
会議室で北条やかなみを含めた大型ギルドの高等級覚醒者や覚醒者協会のお偉方が集まっていた。
半分ほど空席もあるけれど空席前にあるモニターには人の顔が映し出されていた。
覚醒者協会の職員が今回のモンスターウェーブの結果を報告している。
圭たちは無事にモンスターウェーブを乗り越えたけれど激しい戦いの中で当然無事ではなかった人たちもいる。
今後もモンスターウェーブを人工的に引き起こしてモンスターを討伐していく必要があるので死傷者にも手厚い補償がされる。
さらには今後のためにモンスターの解析なども行なっていた。
太羽島は高等級ブレイキングゲートのために放置されていて、新たにゲートが出現しても攻略されない。
そのためにそうしたゲートもいつかブレイクしてしまう。
今回のモンスターウェーブでも前回見られなかったモンスターが増えていて、ブレイキングゲートが新たに発生していることが予想された。
モンスターの数も想定より多く、このまま太羽島を放置しておくと人工的にモンスターウェーブを起こすだけでは危険になるかもしれないというのが分析結果だった。
「ーーーーーー」
「ではどうするのですか?」
リモートで参加している男性の1人が質問をした。
その言葉は日本語ではなく韓国語で、女性の声で通訳される。
「こちらとしてもこのまま放っておくのは危険が高すぎると判断しています。なので高等級を避けて、攻略できそうなブレイキングゲートから閉じてしまおうと考えています」
A級やB級ゲートの攻略は容易くない。
危険度も高く入念な準備が必要になる。
ひとまず増えたであろうブレイキングゲートの攻略を優先し、周りの環境も整えていくことが重要である。
「そのために韓国のギルドの覚醒者にも協力をお願いしたいと考えています」
「こちらとしても太羽島のモンスターは脅威なので協力は惜しみません。ですが、方法はどうしますか? ゲートの位置も分かりません」
通訳なので当人の感情は分からないが前向きに捉えてくれようとしてくれていることは分かる。
ブレイキングゲートを攻略することはいいのだが問題は多い。
まずブレイキングゲートの場所すら分からないのである。
太羽島がモンスターの島となってからずいぶんと時間が経っている。
モンスターの種類からブレイキングゲートの数は予想できるが、どこにブレイキングゲートがあるのか分からなければその前に探し回らねばいけないのである。
B級モンスターやA級モンスターに遭遇してしまえばブレイキングゲート探しどころの話ではなくなってしまう。
「そちらについても現在対策を考えております。RSI社と既存のモンスターステルス機能の小型化に取り組んでおりまして、ドローン機に搭載できるようにしようとしております。こちらの実験が成功しましたら太羽島に送り込んでブレイキングゲートの詳細な位置を捜索します」
デビルカウの時に使ったトラックにも搭載されていたステルス機能はモンスターから狙われにくくなる効果がある。
なかなか大掛かりな装置であり、小型化が難しいために大型のトラックに積むのがせいぜいなのである。
しかし日本ではこのステルス装置の小型化のために研究を重ねていた。
小型化してドローンなどに積み込めばモンスターの中でも安全に調査などができるようになるかもしれない。
「また衛星写真で確認できたゲートもありますのでそちらの解析も進めていきたいと思います。まずは低級ゲート、最終的にはB級やA級も消滅させたいと思っております」
「分かりました。ではこちらでも攻略の準備はしておきます」
「ありがとうございます。調査の結果は随時ご報告差し上げます。計画が決まりましたらすぐにご連絡します」
「それではこちらも忙しいので失礼します」
いくつかのモニターの画面が暗くなる。
「それで、他に報告は?」
「それと……モンスターですが知恵がついているかもしれません」
「知恵だと?」
「はい。氷豹が今回道を作ってきましたが前前回では泳ぎ、前回では自分が飛んでいく分だけを凍らせていました。しっかりとした道を作るような知恵をつけているのかもしれません。いくつかのモンスターにも行動が賢くなったような変化が見られるものもあります」
「危険な兆候だな」
「その通りです。早めに対策せねばより危険度が増すかもしれません」
「……A級やB級ゲート攻略には他の国の協力も必要かもしれないな」
「国民の安全を守るためにも取りうる手段は講じておく必要があります」
「……物騒になってきたわねぇ」
かなみは会議室の重たい空気に辟易としていた。
危険な事態なことは分かるけれど会議室でいくら話したところでモンスターの一体だって死んでくれはしない。
「圭君は元気かしら?」
きっと今回のモンスターウェーブには呼び出されていたはずだが姿を見なかったなとかなみはぼんやりと思っていた。
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