三つ巴の混乱7
「け、圭!?」
何をするのかと思ったら嶋崎にトドメを刺した。
みんなが集まってくる。
「む、村雨さん……」
しかしもちろん圭にトドメを刺すつもりなんてない。
傍目にはかなり危険な攻撃に見えたけれど圭と嶋崎の間には能力の大きな隔たりがある。
ダメージはあるかもしれないが死ぬほどのダメージは与えられない。
気を失うこともなく嶋崎は意識を保ったままだった。
「何が……」
目は完全に普通に戻っている。
「正気に戻りましたか?」
「何があったんですか……?」
「何があったのか覚えていないんですか?」
「うっ……妙に体のあちこちが痛くて……戦っていたはずなのに一体……」
起きあがろうとして嶋崎は全身の痛みに顔を歪めた。
顔や腹だけではない。
起き上がれないほどに全身が気だるくて激しく運動した後のように痛むのだ。
「急に体に力が溢れて、それから……思い出せない」
悪魔の力の反動。
悪魔に操られて限界以上の力を引き出されたために嶋崎の体にはその反動が来ていたのである。
「ひとまず大丈夫そうですね。他のケガ人の容態も確認しなければ……」
次の瞬間ガラスが割れるような大きな音がした。
「かなみ!」
ヴェルターとマティオ、そしてかなみが戦っていたところは濃い青色をした丸い球体で覆われていた。
それはかなみの能力でスキルの深き深海の牢獄によって生み出された結界だった。
その結界の一部が割れてかなみが飛び出してくる。
地面を転がるかなみに思わず薫が悲鳴のような声を上げた。
割れた結界の中からマティオが出てくる。
額から血は流れているがその他は特にケガもない。
「あんた……女の顔殴るなんて最低ね……」
「女だから殴るなというのか? 私は女だからと差別したりしない。男だろうと女だろうと邪魔をするなら殺すのみ」
かなみがフラフラと立ち上がる。
頬は殴られたのか赤くなり、装備の一部は破損して肌が見えている。
最上級のA級覚醒者であるかなみが押されている。
そのことに圭も驚きを隠せない。
「あの男……何者なんだ」
『マティオ・エルボザール【ベルフェゴール】
レベル211[342]【□□□】
総合ランクB[D]【A】
筋力A[C]【A】(英雄)
体力C[E]【A】(無才)
速度A[D]【A】(一般)
魔力B[D]【A】(一般)
幸運D[E]【A】(無才)
スキル:体換筋
才能:弱点を見抜く目』
「な、なんだよ、それ……」
圭は自分の目を疑った。
まだ知らない表示が現れた。
おそらく弱いステータスは悪魔に力を与えられる前のものであることは分かっている。
けれど今回現れた表示はまた違う。
名前のところにまた別の名前が表示され、さらにはそのステータスはオールA。
訳がわからないがかなみの状態を見れば能力に嘘がないことは分かる。
「かなみ!」
「伊丹さん、ダメです!」
かなみが危険だと薫が走り出す。
普段冷静な人ではあるが友達を見捨てるマネはしない。
「薫……!」
「なっ!」
「羽虫が……わきまえなさい」
マティオは振り下ろされた剣を素手で掴み取った。
そして握りしめると剣がバラバラに砕けてしまう。
「薫!」
次の瞬間薫の顔に拳がめり込んだ。
B級覚醒者である薫が簡単に殴り飛ばされる。
「お前!」
「またバカの一つ覚えに……」
圭たちが薫の方に向かってくれていることをかなみは見ていた。
ならやるべきはマティオを倒すこと、少なくとも薫の方に行かせてはならないと思った。
かなみがスキルによる結界を張る。
水の魔法を使って攻撃しながら自身でも前に出てマティオを攻撃する。
「伊丹さん!」
受身を取ることもなく地面に激突した薫は気を失っていた。
「とりあえず伊丹さんを運ぼう」
倒れた場所は屋敷に近い。
このままここに放置しておけばまだ続いている戦いに巻き込まれるかもしれないと考えた。
筋力値も高いし女性の体に触れるなら女性の方がいいだろうと薫をカレンの背中に乗せる。
結界の中でかなみがマティオと戦っているのがうっすらと透けて見えている。
かなみの方が押されている。
かなり分が悪そう。
「……もしかして」
「圭?」
「圭さん?」
このままではかなみがやられるかもしれない。
そうなったら状況は最悪になる。
チラリと持ったままの盾を見た圭。
きっとあのステータスは悪魔によるものだと思った。
ならば盾が通じるかもしれないと考えた。
「みんな、伊丹さんを任せた」
今マティオはかなみと激しく戦っている。
不意をつくならチャンスかもしれない。
勇気を振り絞って圭は走り出した。
「圭さん!」
「……待つんだ」
「でも、夜滝さん!」
「ああなったら圭は止められないよ。それに……」
夜滝は真っ直ぐにマティオに向かう圭の背中を見た。
「昔から圭はやる男だからねぇ」
ほんの一瞬かなみは圭を見た。
走ってくる圭を見て薫ですら簡単に殴り飛ばされたのに圭に何が出来るんだと思った。
けれど圭に止まるつもりはなさそう。
このまま声をかけてもマティオに気づかれてしまえば危険になる。
戦い続けて気を引くしかない。
かなみは圭に何か作戦があるのかもしれないと賭けてみることにした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます