三つ巴の混乱6
「この体がいつまで持つか分からない。早めに終わらせよう」
「消え……」
マティオの姿が消えた。
ヴェルターにはそれが早いのか、あるいは何かの能力でそうなったのか分からない。
「探し物はこれか?」
後ろから声がしてヴェルターは振り返った。
何かを投げられてそれを受け取ろうとしたけれどヴェルターには出来なかった。
「う、腕が……」
受け取ろうとしたヴェルターの右腕は無くなっていた。
ボトリとヴェルターの前に落ちたそれも腕であった。
「貴様ぁーーーー!」
ようやく体が腕の無くなった痛みを感じ始めた。
「これは警告だ」
マティオは膝をついたヴェルターにゆっくりと近づく。
「今すぐ私に乗り換えるといい。この国で築いた全てを私に渡せ。そうすれば命だけは助けてやろう」
ヴェルターの首に剣を押し当てる。
脅しではなく少し刃先がすでにヴェルターの首を浅く切っている。
「……本当に助けてくれますか?」
「ふふふ、浅ましいな。だがそれでこそ悪魔に魂を売るような人間だといえる」
「命が助かるなら……」
「しかし……」
マティオが剣を下ろして周りを見る。
何十本という水の槍の切っ先がマティオに向けられていた。
「その人から離れてください」
魔力の影響で髪の毛がふわりと逆立つかなみの魔法だ。
ヴェルターがここで殺されるのはまずい。
拘束するだけならともかく殺害されてしまうと確実に国際問題になる。
「離れなければどうすると言うのだね?」
「あなたを倒します」
「ふふ……やってみると良い」
マティオは歪んだ笑みを浮かべた。
ーーーーー
「嶋崎さん!」
マティオとヴェルターが戦っていた一方で圭たちは嶋崎を止めようと奮闘していた。
目が黒く染まった嶋崎は敵も味方もなく暴れている。
力が強く相手を殺す気で戦ってくるので薫も押されていて制圧も難しい。
屋敷の中でも同じく目が黒く染まった覚醒者が暴れていてそちらの方に予備の戦力が投入されてしまった。
なので嶋崎を押さえるために圭たちが戦うしかなかった。
しかし力の差がありすぎてまともに戦うのは非常に危険。
なので薫を中心として圭たちは嶋崎の注意を分散させるように戦っている。
圭が声をかけても嶋崎に反応はなく、なんとか圭は嶋崎の剣をかわした。
「嶋崎さん、正気に戻ってください!」
どうしたら良いのかも分からずただ声をかけることしかできない。
これが悪魔の力よるものだと圭は気づいた。
屋敷の中から仮面をつけた人が飛び出してきたのだがどの人も目が黒く染まっていた。
黒月会側の力を与えられ人に何かをした。
それがきっと悪魔のものであると頭の中で繋がるのはすぐであった。
「悪魔……」
悪魔をどうしたらいい。
そう考えた瞬間圭の頭に1つの考えが浮かんだ。
「……伊丹さん!」
「なに! あんまり余裕ないんだけど!」
薫は嶋崎の攻撃をギリギリのところで防いでいる。
「少しだけ嶋崎さんを押さえられますか!」
「押さえるって?」
「俺が一撃加える間動きを止めてほしいんです!」
「それぐらいなら……なんとか!」
「カレン、盾を俺に!」
「わ、分かった!」
いきなりの要求に困惑するカレンだが圭の言うことならばとすぐさま盾を外して投げ渡す。
「伊丹さん!」
「任せ……くっ!」
嶋崎を拘束しようと薫が無理矢理前に出る。
その過程で脇腹を浅く切られて薫が顔を歪ませた。
袖を捕まえ両手を押さえて薫と嶋崎で力比べの状態になる。
「あまり長くは持ちません!」
嶋崎の方が力が強い。
薫が全力で押さえても嶋崎は少しずつ動いている。
想定していたよりも長くは押さえていられない。
「嶋崎さん、すいません!」
圭は受け取った盾を振り上げると嶋崎の顔を思い切り盾で殴りつけた。
盾の扱いに慣れていない圭。
盾の面で殴りつければよかったのに咄嗟のことで縁で殴ってしまった。
もっとダメージの少ない選択肢があったのに慌ててたからガッツリ攻撃になってしまった。
『類い稀なる幸運の効果が発動しました』
顔を殴られて嶋崎がぶっ飛んでいく。
「悪魔の力なら……」
圭が思い出したのは先日行ったイービルアイのダンジョン。
盾を持っているカレンにイービルアイの状態異常の効果はなかった。
盾が持つ魔を払う力が発動したようで、和輝によるとイービルアイの力は一種の悪魔の力であると言っていた。
もしかしたら盾によって嶋崎の悪魔の力を払えるかもしれない。
そう考えたのである。
圭の才能が発動したなんていう表示をすぐに消して圭は盾を構えて嶋崎に近寄る。
「嶋崎さん……?」
「うっ……」
うめき声を上げる嶋崎。
効果があったかどうかは目を見れば分かるはずだ。
「……効果がある!」
右目だけではあるが普通に戻っている。
「村雨……さ」
「ごめんなさい!」
ただ左目はまだ黒く染まっている。
盾と接触している時間が短かったから一度じゃダメだったのかもしれない。
圭は盾を振り下ろす。
しかし未だに圭の冷静さは戻っていないくて嶋崎の腹部に盾を垂直に下ろしてしまった。
周りからは圭がトドメを刺しているように見えたことだろう。
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