三つ巴の混乱5
そもそもは圭の様子が怪しいので少し後をつけてみようということになった。
カレンに車を出してもらい圭の後を追っかけるとスモークが貼られた怪しい車に乗り込んだ。
そうして追いかけてみると変な別荘みたいなところに入っていった。
一度通り過ぎていつか出てくるだろうから待とうと戻ってきたら今度は怪しい黒塗りの車が突っ込んでいくところだったのだ。
ここまでたまたまカレンが車を持っていっていたしたまたま装備を乗せたままだったからやれたことだった。
運が良いのか悪いのか分からないけどともかく助かった。
「けど本当に何してるの!」
「いてて……!」
波瑠が怒ったように圭の腕をつねる。
「ワケは後で話すよ」
「今はここから離れた方が……」
「嶋崎さん!」
「なんだ!」
薫の悲鳴にも近い叫び声が聞こえてきて圭はそちらに目を向けた。
嶋崎と戦っていた覚醒者は倒されていた。
それだけではなく嶋崎を助けに向かっていた覚醒者協会の覚醒者も倒れている。
今は薫と嶋崎が鍔迫り合いをしている。
「正気に戻ってください!」
嶋崎が薫に切りかかっていて圭は何が起きているのか理解できなかった。
「不穏な魔力を感じるわ……」
かなみが眉を寄せた。
「なんだか目がおかしくねえか?」
良くみると嶋崎の目が真っ黒に染まっていた。
薫の声も一切聞こえていないように嶋崎は薫に襲いかかる。
薫も一応B級覚醒者なのに嶋崎に押されている。
嶋崎に攻撃できないでいるということだけが原因じゃない。
容赦ない嶋崎の方が薫の力を上回っている。
「いきなりどうしたんだ……」
嶋崎に薫と戦う理由はない。
それにどうして目が黒く染まっているのかも分からない。
「はははっ! こんなものか!」
屋敷の壁が壊れてヴェルターが転がるように飛び出してきた。
すぐさまマティオが後を追いかけてきて剣を振り下ろす。
ヴェルターの姿はぼろぼろになっていて口の端から血を流している。
対してマティオはほとんどケガもしていない。
「ぐっ! ガッ!」
剣を防ぐが連続して繰り出された蹴りには対応できなくてヴェルターが飛んでいく。
「貴様……舐めるなよ!」
壁の穴から嶋崎と同じく目が黒く染まった覚醒者たちが飛び出してきた。
「こんな雑魚が来たところで……なに!?」
マティオが飛び掛かってきた覚醒者に後ろ回し蹴りを決めた。
覚醒者としての格の違いがある。
骨が砕ける感触が足に伝わってきて、普通ならこれで終わりだと油断したマティオの足を覚醒者が掴んだ。
「こいつ……!」
別の覚醒者が迫り、マティオは剣を突き出す。
胸に剣が刺さるが覚醒者はそのままマティオの手を掴んで抜けないようにしてしまった。
「何をしやがった!」
足と手を押さえられた。
その隙を狙ってヴェルターがマティオに迫る。
「クソが!」
無理矢理剣をかわそうとしたけれど左肩を切り裂かれてマティオが怒りの表情を浮かべる。
「死ね!」
マティオは足にしがみついた覚醒者の頭を鷲掴みにするとヴェルターに投げつける。
「なっ……か……!」
覚醒者をかわして再びマティオに接近したヴェルターの剣を防ごうとして未だに覚醒者が突き刺さったままの剣を振り上げたがマティオの視界が急に赤く染まった。
剣に突き刺さった覚醒者が口に溜まった血をマティオの顔に吐き出したのだ。
ヴェルターの剣がマティオの腹に突き刺さる。
「信心とはお金だけではありません。時には命すら投げ打ってこそ主様への信心の深さを証明できるのです」
手を広げて笑うヴェルター。
「力を受け取ったものがその信心を示すのは当然のことでしょう」
目が黒くなったのはヴェルターのせいだった。
ヴェルターによって悪魔の力を受け取った信者たちの力を引き出し、死をも恐れない戦士として無理矢理戦わせ始めた。
覚醒者協会と大海ギルドが入ってきて状況が不利になったと悟ったヴェルターの奥の手であった。
「フー……クソが……」
傷は深い。
形勢は一気に逆転した。
マティオは剣に突き刺さった覚醒者の首を折ると剣から引き抜く。
しかし血が流れて体に力が入らない。
マティオはガクンと項垂れた。
「ふふふ、あなたの力をいただいて主に捧げましょう。他の悪魔の使徒ならば喜んでくれるはずです」
ヴェルターはゆっくりとマティオに手を伸ばした。
この状況を打開するためにもより力が必要が必要だ。
マティオの力を奪えば誰にも止められなくなるはずだと思った。
「それはできないな」
ヴェルターは背中に冷たいものが走るような感覚がして後ろに飛んだ。
マティオが剣を振り、ヴェルターがいたところの空気を切り裂いた。
「この体は私のもの。勝手に奪われては困る」
「……あなたは一体」
悪魔の力。
そう思ったけれど少し様子が違う。
顔を上げたマティオの目は黒と赤に染まっている。
瞳が赤く、白眼は黒くなっている。
雰囲気もなんだかおかしい。
人を見下したような傲慢な態度が立ち姿にも出ているようなやつだったのに今はどことなくスマートさがある。
剣によって開けられた腹の傷も一切気にする様子もない。
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