三つ巴の混乱4

 モンスターと人間の違いは魔力による挑発が効きにくいことがある。

 魔力に敏感なモンスターに比べて人間は魔力にやや鈍感である。


 魔力を感じられてもそこに不快感を感じないようなことも多く、モンスターのように引きつけることができない。

 モンスターにも知能が高く挑発が効かないモンスターや魔力に鈍感なモンスターはいる。


 そうした時にはタンクが前に出る。

 直接圧力をかけて相手の目を引くのだ。


 人間も割とそうしたやり方は通じる。

 先頭を切って迫ってくるカレンを中心に男は警戒する。


「舐めるな!」


 武器はなくとも格下の覚醒者になんか負けない。


「うあっ!」


 男が正面からカレンの盾を押すように蹴り飛ばす。

 強くなってきたカレンであるがそれでも限界はある。


 男の方が力が強くてカレンは踏ん張りきれなくて大きく後ろに押し戻される。

 だがカイと戦った時のような絶望的な差は感じられない。


 圭が見たところでは男の筋力値はD級。

 カレンよりも1つ上となる。


 1つ違うだけでもやはり抵抗するのは難しいが防ぎきれないほどの力があるわけじゃなさそうだ。

 

「らあっ!」


「くそっ!」


 だがカレンは役割をしっかりと果たした。

 カレンが蹴り飛ばされるのと同時に後ろから飛び出した圭は男の足に向かって剣を振り下ろした。


 完全に統制の取れた連携。

 回避が一瞬遅れて男の足を剣がかすめて浅く切り裂かれる。


「私もいるからね!」


 けれど痛みに怒っている余裕など与えない。

 今度は逆側から波瑠が襲いかかる。


 圭よりも早い波瑠は圭が切りかかっている間に後ろに回り込んでいた。


「そう何度もやられると思うか!」


 振り返りながら拳を振るう。

 けれど波瑠には当たらない。


「ガッ……!」


 そもそも波瑠に攻撃するつもりはなかった。

 回り込んで、接近して、すぐに離れた。


 そこに攻撃の動作はなく、男が振り返った時には拳は届かないところにいた。

 じゃあなぜ後ろに回り込んだのか。


 波瑠の行動の意図を理解するよりも早く、男の肩を水の槍が貫いた。

 夜滝の魔法である。


 波瑠の目的は陽動。

 男の目を逸らすために後ろに回り込んだのであった。


「おりゃあああ!」


 “敵に隙ができたら見逃さず攻めろ”

 強敵になればなるほどほんのわずかな隙をつくことが大切になる。


 攻撃を少し当てたからと喜んだりはしない。

 ちゃんと勝ったのを確認するまでは油断するなと和輝は口すっぱく言ってきた。


 夜滝の魔法が当たろうと当たるまいと次への警戒はしなければならない。

 男の前に飛び出したカレンがメイスを振り下ろす。


 直撃はしたが体力値が高いのでそんなにダメージはない。

 それでも強い衝撃があって男が膝をつく。


 一瞬判断に迷いはあった。

 相手はもう人を多く殺した悪魔教の人間。


 圭たちが勝つことはできても力が足りなくて制圧することは難しい。

 そのまま刃を振り下ろして首を切ってしまえば倒すのは楽である。


 だけど人を殺していいのか。

 そんな考えが圭の中にあった。


 相手を殺したら相手と同じ人殺しになってしまう。

 多分そうしたところで非難する人はいない。


 考える時間は短い。

 時間を与えてしまうと男が立ち直ってしまう。


「……よし、終わりだね」


 圭が下した判断。

 剣を思い切り振り下ろした。


 ただし刃ではなく柄を全力で男の首にだ。

 もしこれで気絶しなかったらその時は殺すしかない。


 圭に全力で殴られて男は気を失った。

 普通の人だったら首ぐらい折れていただろうが圭よりも格上の相手だから気絶する程度で済んだ。


「村雨さん!」


「伊丹さん!」


 黒いバンが次々と屋敷の敷地内に入ってきて人が出てくる。

 その中の1人が圭に気がついて駆け寄ってくる。


 薫だった。

 いつものスーツ姿とは違って戦闘用の装備を身につけている。


「遅れてしまってすいません! ようやく上の許可が下りました」


「屋敷の中にいる人を全員制圧しなさい! 抵抗するなら殺しても仕方ないわ!」


 かなみも車から降りて指示を出している。


「あっちの仮面の人は嶋崎さんです!」


「分かったわ!」


 嶋崎は未だに戦っていた。

 薫にそのことを伝えると薫は数人覚醒者を連れて嶋崎の方に向かう。


「圭君、大丈夫?」


「あ、はい……」


 色々と危なかったけれどなんとか生き延びた。


「後は任せて。ここからは私たちの仕事だから」


 かなみが差し出してくれた水のペットボトルを受け取る。


「ふぅ……」


「圭!」


 なんだか安心したら気が抜けて体がふらついてしまった。

 カレンが慌てて支えてくれたけれど倒れるほどには力は抜けていないのになと思った。


「それにしてもみんな、どうしてここに?」


「それはこちらのセリフだねぇ」


 夜滝の目が怖い。


「圭の様子が怪しいことは分かっていたから……ちょっと後をつけたんだ。そしたらこんなところに入っていくし、変な車が突っ込んだと思ったら爆発は起こるしだ」


 何が起きているんだと状況を把握しようとしていると圭が出てきて戦い始めたのが見えた。

 だから夜滝たちは車に乗せていた装備品を身につけて圭を助けに飛び込んできたのであった。

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