神話級の幸運5
着目する点が多い。
まずはそもそもレベルとはなんだ。
技術が発達して覚醒した人たちの能力がある程度分かるようになったけれど覚醒者にレベルがあるだなんて聞いたことがない。
以前に見た伊丹はかなりの高レベルだったのに対して夜滝はレベルとして低い。
どちらが正しいのか分からないので低い高いと判断するのは早計かもしれない。
夜滝は自分のことをF級と言ったが真実の目で見てみるとG級である。
さらには実際の能力を見てみると伊丹との違いもある。
低い等級らしく能力値も低いのだけど魔力がその中でも高い。
しかし気になるのはそこではない。
やはり能力の横に出ている一般とかの文字が気になる。
伊丹は無才か一般だったのに対して夜滝には伝説とか英雄とかなんか凄そうな文字が見えた。
「けーいー、まだかーい?」
「まだだよ」
だいぶくたびれたソファーに寝転がりながら夜滝は料理する圭の姿を眺めていた。
そして未覚醒なる才能やスキル。
「夜滝ねぇは……やっぱりすごいな」
「何がだい?」
「うわっ! びっくりした!」
いつの間にか真後ろに立っていた夜滝に気づかなかった圭は驚いた。
「私が凄いことは分かっているが何が凄いのかな?」
「その自己肯定感の高さかな?」
「ハッハッハッ! それはきっと圭が私を認めてくれるからかもしれないね。凄い圭が私のことを凄いと認めてくれるから私も自分を凄いと思えるのさ」
「夜滝ねぇは褒め上手だね」
自分を持ち上げているようでありながら圭のことも持ち上げて褒めてくれている。
「昔から言ってるけど凄いのは圭の方さ。偏見なく人を見て私にも寄り添ってくれた」
「夜滝ねぇは昔から凄かったさ。ただちょっと人付き合いが苦手なだけ」
圭は切った野菜を鍋に入れて軽く炒める。
「そう言いながらも私との付き合いを断念した人が何人いることか」
「夜滝ねぇが凄すぎるのかもね」
互いに凄い凄いと褒め合っていてなんじゃこりゃ、って思うけど気分は悪くない。
「まだもうちょっとかかりそうだね。少し仮眠するよ?」
「ああ、出来たら起こすよ」
夜滝はまたソファーに倒れ込む。
未覚醒とはなんだろうとまた考え始める。
覚醒者は覚醒しているのにまだ覚醒していない部分があるというのだろうか。
伊丹の無才ということから考えるに一般とか伝説とかというのも才能があることを示している。
つまりは伸び代のようなものがあるのではと推測した。
レベルがあるならそれが上がればステータスも上がる。
ゲーム的な考えであるが人が覚醒したりステータスがあるような世界になってしまったのであり得ないと可能性を排除することだってできない。
「じゃあもしかしたら夜滝ねぇは伝説的な魔力の持ち主でまだスキルも才能も覚醒していない……あれ、俺の上着」
ふと夜滝の方を見ると圭の上着を丸めてまくらにしていた。
「ただレベルを上げる方法って……」
仮説が正しいとして強くなるにはどう考えてもレベルを上げることである。
しかし今のところレベルという概念が見えているのは圭だけだ。
これもゲーム的に考えるとレベルを上げるには敵を倒して経験値を溜めるとかそんなことになる。
けれどモンスターを倒して強くなったという話はあまり聞いたことがない。
稀に二次覚醒なるいきなり強くなることもあるけれど二次覚醒も原因が分かっていない現象である。
「他にレベルを上げる方法がある? うーん……分からんな」
別に夜滝に冒険者になってほしいとか思わない。
危険な仕事であるし今のまま研究者であってくれた方が安心でいい。
雇われてるし。
でもいつどこでゲートが発生してモンスターが出てくるかも分からないような時代である。
自衛の手段は持っていても損なことなんてない。
「伝説級の魔力か」
少しワクワクする響きではないか。
夜滝がバンバンと魔法を操ってモンスターを倒していく。
昔から憧れのお姉さんであったけどさらに憧れてしまいそうだ。
「よしっ!」
圭が作っていたのはカレーだった。
夜滝たっての希望で作ることになった具材ゴロゴロカレーである。
「夜滝ねぇ、起きて」
ちょうどご飯も炊けたのでタイミングもいい。
「んん……ふふっ、なんだか恋人みたいだと思わないかい?」
「そう……かな?」
恋人というよりちょっとだらしない姉としっかり者の弟かなと圭はひっそりと思った。
「うーん、いい香りだ」
カレーを盛り付けて食べる。
「これこれ。食堂のカレーも美味しいんだけど家庭のものとはやっぱりちょっと違うからね。母の味ではないけどよく食べた味だよ」
子供でもミスなく作りやすいものだからカレーを昔はよく作った。
具材もさまざま作ってみたけど夜滝の好みだったのは大きな具材がゴロゴロと入ったカレーだった。
ちなみに甘口である。
「正式にどの部屋が割り当てられるか決まったらここは引き払うのかい?」
「……そうしようかな」
思い出のある部屋だけどいつかは出ていく部屋だと思っていた。
ろくな仕事もなくて安い給与だったから安いこの部屋から出ていくことはできなかった。
良い思い出も辛い思い出もあるこの部屋から前に進む時が来たのだ。
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