神話級の幸運4

「もう1個ケーキで手を打ちましょう!」


 なんとも小さい脅迫。


「そう言われては従うしかないねぇ」


 夜滝も笑って空になった皿を持ってもう1つケーキを乗せて戻ってくる。


「秘密の取引だね」


「そうですね、証拠は私のお腹の中に入っちゃいます」


 そう言って目の前に置かれたケーキを早速食べ始める。


「井端さんも面白い人ですね」


 夜滝は独特な感性とリズムで人と合わないこともあるけれど井端は夜滝と馬が合うようだ。


「う……そ、そんなことないですよ」


 褒められ慣れてないのか井端が顔を赤くする。


「むぅ、ダメだぞ助手君に色目使っては」


「使ってません!」


「ふん、どうだか。でも探していた人材に当てはまるだろう? むしろG級なんて見つけるのは大変なはずだ」


「まあそうですね……問題はなさそうですしこのままでも多分何も言われないでしょう。あとは夜滝が気に入っているとか一言付けときゃ通りますよ」


「まるで私が人を気に入らなくてやめさせるみたいじゃないかな、それじゃ」


「私の上司は消えましたけど?」


「それは彼が私の研究費承認しないから調べたら横領していたってだけの話さ。自業自得」


 なかなか怖い会話をしている。


「後で覚醒者等級検査を受けてもらいますけどあとは大丈夫ですね。出来れば村雨さんが夜滝を大人しくさせてくれと嬉しいですね」


「私は大人しくて良い子だよ。ね、圭?」


「……夜滝ねぇは夜滝ねぇだよ」


「ウソをつけないところもいいですね」


 誤魔化すように笑う圭を見れば出会う以前も変わらない人だったことは丸わかりである。

 質問も終わってあとは普通のティータイムとなる。


 井端から夜滝の大学での話をちょいちょい聞きながらのんびりとお茶とケーキを楽しんだ。


「では私は失礼します。ええと、2日後に検体が届くことになってるので準備しといてくださいね」


「2日後ね、分かった」


「村雨さんもよろしくお願いします」


「はい。改めてよろしくお願いします」


 ちゃっかり1時間の仮眠まで取って井端は部屋を去っていってた。


「さて今日は特にすることもないしねぇ……もう少し中を案内しようか。美味しい食堂もあるんだ。腕の良いシェフがいてね」


 会社の中には食堂や売店、果ては社員が調べ物にも使える資料館を兼ねた図書室やフィットネスルームまであった。

 さすがは一流企業と圭も色々案内されながらRSIのスゴさに舌を巻いていた。


 こんなところに勤められるのかと思う感動する反面畏れ多さもある。

 研究棟も研究室があるところ、実験を行うところと別れていて他人の研究室には勝手に入らないなどの注意も受けた。


 一通り回っただけでもかなり時間を使った。

 RSIでの研究職はどちらかといえば成果主義に近いところもあって成果が出ていれば緩めであるらしい。


 そういうことで今日のところは家に帰ることになった。

 流石にまだ寮の方は部屋が割り当てられていないのでボロアパートの方に向かう。


「こうして買い物するのなんて久々だねぇ」


 食堂で食べて帰ってきてもよかったのだけど夜滝が圭の料理を食べたいというので家で作ることになっていた。

 でも家には何もないので帰りにスーパーに寄っていく。


 お金は夜滝持ちで、夜滝の希望を聞きながら何を作るか考えて圭が食材を買っていく。

 昔2人で買い物に来ていたりしたことを圭も夜滝も思い出していた。


「ほら、持つよ。こっち持って」


「ふふっ、昔から男らしいね」


 重たい方の荷物は圭が持つ。

 デザート代わりに買ったアイスが入った小さな袋を夜滝に渡す。


 昔から自然とこうした感じて重たいものは圭が持っているのが習慣である。


「そういえば夜滝ねぇも覚醒者なんだもんね」


 スーパーから家までは近いので歩く。


「等級とか聞いてもいい?」


「もちろんさ。私はF級さ。Fの中でも弱くて戦闘向きじゃない。頑張れば覚醒者として戦えないこともないけどそっちだとそんなに稼げないだろうね。どちらかといえば圭に近いかもしれないね」


「ふぅーん」


 よく知っていると思っていた夜滝だったのに覚醒していたとは知らなかった。

 ふと圭は興味を持った。


 真実の目で見たら夜滝の能力も見れるだろうかと。


「真実の目」


 夜滝にバレないようにポソリと口に出してスキルを発動する。


『平塚夜滝

 レベル23

 総合ランクG

 筋力G(一般)

 体力G(一般)

 速度G(一般)

 魔力E(伝説)

 幸運F(英雄)

 スキル:思考加速(未覚醒)

 才能:魔道的並列思考(未覚醒)』


「えっ!?」


「な、なんだい?」


 真実の目で夜滝の能力が見えた。

 その内容を見て圭は思わず驚きの声をあげてしまった。


 いきなり圭が声を出したものだからそれに夜滝も驚く。


「何か買い忘れたものでもあったかい?」


「いやなんでもないよ。ちょっと個人的に思いだしたことが」


「急になんだい? 驚くじゃないか」


「ごめんよ、夜滝ねぇ」


 なんとか誤魔化せたが目の前には夜滝のステータスとでもいったらいいのか、能力が浮かんで見えている。

 帰り道ぼんやりと夜滝のステータスを眺めているとあっという間に家に着いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る