第28話 赤城クロノ:【初コラボ】酒カスだらけの飲酒ゲーム実況?!【ゲスト:アカバ皇、赤羅カオ(敬称略)】
「はじめましての方ははじめまして。そうじゃないやつはこんアカバ〜。どもどもアカバ
「ぽしゃけしか勝た〜ん! バーチャル興業所属の酒カス地雷女こと
「あ、どうも赤城クロノです。virtuala一期生、感情交差点の赤い方……です。よろしくお願いします」
ミキママとのコラボを成功させ、クリスマスに行うライブを告知。チケットは順調に売れ、チャンネル登録者数五万人まであと少し。まさに順風満帆といえる赤城クロノの、初の箱外コラボは、何かと因縁のアカバ
アカバの古巣であるFIPと同じ大企業でありながら、バーチャル興業はアイドル売りではなく、どちらかと言えば芸人気質のタレントが多い箱である。所属タレントが総勢五百人とかなりの人数がいることから、はっきり個性を売り出せていない人は平気で埋もれていくし、タレントから個人勢と対して変わらないという愚痴が出るほどの放任主義である。
赤羅カオは、酒カス地雷女の名乗りからわかる通り、汚れ上等系。赤髪のハーフツインに地雷系ファッションの見た目で、アイドル売りのVtuberが異性とのコラボを避ける傾向にあるなか、男性ともコラボをするし、転生直後からアカバと仲がいい。その配信スタイルから何度かボヤ騒ぎになっているし、アンチも多いが、銀盾を達成している。
メンバーだいぶいかついけど大丈夫そ? そのせいかなんだか借りてきた猫状態のクロノである。
すっかり酒カスが定着しているクロノのキャラクターだが、配信者としてのキャリアはまだまだで、インターネット巧者に挟まれてやりづらそうである。
三人で一つのチームのゲームをして、その試合で一番キル数が少なかった人が一気飲みという、単純明快なルールで配信は進んでいく。配信は完全にアカバのペースで進んでいる。ハクトのような超絶ゲーム音痴ではないものの、ゲームが特別うまいわけではないクロノは無言になりがちだ。
三人が配信しているFPSは、人気だが単純に難しいし、待ち時間の雑談で撮れ高が生まれがちとはいえど、初対面で盛り上がりながらコラボできるゲームかというと微妙な気がする。もちろんゲーマータイプのVtuberは、ゲームプレイで撮れ高つくれるからいいのだが。
配信巧者でゲーマータイプのアカバ皇が主体になるのは、まあ必然的にそうなるな、という感じ。別に主導権握ってほしいわけじゃないけど、せっかくの新規リスナー獲得の機会に、借りてきた猫状態で、置いていかれないように必死にゲームしてるクロノを見るのは、ちょっとツラいものがある。
赤羅カオもゲームがうまいVtuberなので、最後の罰ゲームは必然的にクロノに回ってくることが多くなる。配信に映るわけでもないんだし、途中で水を挟むくらいはしろ、という私の指示は完全に無視されたようで、バカ正直に一気飲みを繰り返したクロノはかなりの酔っ払いモードに突入した。クロノは特別お酒に強いわけではないのである。
マッチング待ちの雑談タイム、さすがに飲ませすぎたと反省したのか、アカバがこんなことを口にした。
「クロノくん大丈夫? 生きてる?」
「うい」
「大丈夫じゃなさそうだね。中学の公民の先生は?」
「ロケンロウ田中」
「あ、それは覚えてるんだ」
クロノの飲酒配信のレギュラー枠、公民の先生。アカバは結構クロノの配信をチェックしているらしい。
「え〜、カオしゃ、その話知らないんだけど。なんでロケンロウなの?」
「ロックが好きだからっすよ。あと老健法のもじり。法はlowだから。ダジャレっすね」
「ウケる〜」
あまりウケてなさそうだけど、話にはきちんと混ざるカオしゃこと赤羅カオ。彼女も何回か飲んでいるが、自己統制ができているようだ。嘘がないのはいいことだけど、クロノには彼女を見習って、自己管理をきちんとしてほしいところだ。
「カオしゃはよく知らないんだけど、クロノくんは元バンドマンなんだっけ? ロックの道はもういいの〜? ユニット組んでるけど、ハクトくんはロック畑じゃないでしょ?」
「いやアイツはすごいんすよ。まず声いいし、なんでも歌えるし、芯があるというか……。奴がイケカテ歌い手とか、チックタックで腰振ってるキッズみてえないけすかねえのだったら、オレはデビュー前にやめてましたけどね、ああいう声や表現を好きに使って曲が作れるんだったら、そりゃあ残りますよ。だってオレは良い曲が作りたいんだから。何が好きでどういう経歴なのかとか、オレばっかり喋っててちゃんと聞けてないのもったいないと思ってはいるんすけど、アイツは俺がしがみついてたロックじゃないかもしんないけど、新しくて別の美しさがある世界を見てる気がして。うまく言えないけどなんかいいものができる気がするんすよ。アイツはまあ素材としての優秀さもそうですけど、出してくる表現が面白いし……」
「お〜。なんか、てえてえ話聞けちゃった」
……酔ってるなぁ。個人でのやり取りは知らないが、みっくんはこういうことを口にするタイプではない。
「なんかクロノくんだいぶ酔ってるから、雑談にして終わりにしよっか」
「カオしゃも賛成〜。ラギさん、今のクロノくんになら何きいても答えてくれるよ。なにききたい?」
「え〜まず最寄駅からきいちゃおっかな〜? どこ住み? SNSは何派? ナンチャッテ」
「やだ〜。ウケる〜」
赤羅カオの反応からわかる通り、アカバの最寄駅発言は冗談である。だがバカ正直代表選手、酔っ払いの赤城クロノにはその冗談が通じなかった。
「最寄駅? 明大前っすよ」
バカバカバカバカバカバカバカバカバカ! 元から喋りすぎなところはあったが、これは本当に身元特定に繋がりかねない。
「あちゃ〜。アーカイブないなったなコレ。たはは」
さすがのアカバ皇も、これには困惑である。赤羅カオに至っては、アバター越しでもわかるほどの狼狽ぶりで、え、を連発するなり無言である。
「やっぱクロノくん面白いわ〜」
それでもカラカラと笑っているアカバが、薄ら怖いが心強い。ヤバイ橋を渡り続けてきた強者の風格で、うまく配信を閉じようとしているところに、さらなる事件は起きた。
「ん? 配達?」
クロノの家のインターホンがなったのである。
ピンポーン。最初は控えめだった音が、苛立ったのか、だんだん間隔が短くなっていく。
特定された? こんな早く? 血の気がひくとはこのことだ。動かなければと思うのに、足先が冷たくなって動かない。
「すんません、ちょっと出ます」
「いやいや。でちゃダメだよクロノくん。家凸じゃない? ちょっと静観しよう。どうせアーカイブ残せないし、晒したいならそれもいいけど、配信のって目立ちたいバカだったら思うツボだからさ」
「やだ、やだ。なんでラギさんはそんな落ち着いてるの? うち怖いよぉ」
闇月リズの推し活チャンネル「え、やば」
technicall「どうせアーカイブ残らんからてwww」
ミラっこ「家凸キタ――(゚∀゚)――!!」
miroro「警察」
腹筋バッキー「家凸†爆誕†」
あるどん「やばすぎるwww」
ハクメンV「やばいって」
えりあす「トレンドのってるwいっそ晒せw」
にんにん丸「ある意味もってんなぁ」
ランたそ激推し「大丈夫ですか」
月下「大丈夫ですか心配です茶化してる人ほんと無理」
コメント欄も大混乱だ。
不幸中の幸いというべきか、謎のインターホンを押した人物は、数回で飽きたようで、そこから一時間ほど、何も起きなかった。
「つまんねえの。じゃあ配信はここで締めようか。またコラボしようね〜」
とんでもない初コラボ配信は、アカバの一言で終わりを告げた。ツブヤイターのトレンドにのるほど注目を集めたこのトラブルは、さらなる騒動を引き起こすことになる。
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