第27話 ギンガミキ:【ファンオデ冬季限定ガチャ】サンタセリーナが欲しい。周回もやる【with感情交差点】

 ファンタスティックオデッセイ、通称ファンオデとは、最近Vtuber界隈で流行しているリアルタイムストラテジー(RTS、Real-time Strategy)を簡略化したようなソシャゲである。要はスキルの発動、及びスキルを放つ場所の指定をプレイヤーが行い、ターン制バトルを楽しむ。有名イラストレーターがキャラクターのイラストを描いていて、我らがギンガミキさんもイラストレーターとして参加している。


 十一月の二十五日にクロノの誕生日配信があったと思ったら、世間はもうクリスマスモードである。ファンオデも集金……じゃない、冬季限定ガチャとクリスマスイベントが開催され、実況も盛り上がっている。ミキさんはセリーナという名前の人気キャラクターのイラストを描いていて、今回のガチャでもSSRサンタセリーナは、性能も見た目もいいので盛り上がっている、のだが。


「ファンオデ配信苦手なんだよね……」


 感情交差点クリスマスライブの、グッズ、告知イラストについての打ち合わせで、ミキさんがこぼしていた。


「そうなんですか?」

「数字とれるしやりたい気持ちはあるんだけど、ファンオデは指示厨とネタバレ厨が湧きやすいし、キャラ愛すごい人が多くて下手なこと言えないし……。私はリアクション芸も苦手だからガチャもしらけがちでねぇ」

「なるほど」


 ファンオデは人気ゲームが故に、ゲーム自体の濃ゆいオタクもいる。ミキさんはイラストで関わっているので、公式に近い人がキャラ愛が薄そうな発言、例えば過去イベで明かされた設定を知らなそうな発言をすると、悲しくなるオタクが多いのかもしれない。イラストレーターさんにキャラ愛が必要かと言われれば、そんなことはないのだが、オタクのお気持ちとしてはわからないでもない。


 またソシャゲ配信でよくあるのが、ガチャの結果に一喜一憂する様を見せるガチャ配信だが、ミキさんはリアクション芸が苦手なゆえに、これも盛り上がりに欠けるらしい。個人的には、ガチャ配信のリアクション芸は、好きなキャラをハズレ扱いされたことが不快だったので、控えめなぐらいが見やすいのだが。


「一期生をガヤで派遣しましょうか、なーんて」


 半分冗談ではあるが、箱内コラボの機会は確保したいところ。クロノの記念配信での失態を取り返すチャンスでもある。意外にもミキさんが乗り気だったので、あっさりとコラボが決まった。




※※※




「こんミキ〜。サンタセリーナが引きたいギンガミキです」

「あ、お、おはようございます、蒼川ハクトです」

「どうも〜、お世話になります、赤城クロノです」


 おのおのの挨拶から始まったコラボ配信は、根本的にソシャゲ配信にガヤが必要なのかどうか、という問題はあるものの、そつなく進んでいった。特に記念配信でミキさんのリスナーからの信用を失ったクロノは、普段の安定したトーク力を見せることができ、信頼の回復に成功したようだ。


 飲酒配信でバズったことにより、赤城クロノのイメージは酒カス、失言、なぜか登板回数が多い中学の公民の先生をはじめ個人情報漏洩など散々だが、本来のクロノ……というよりみっくんは、人を観察して身の振り方を考えられる、気が使えるタイプである。意外にも。自語りばかりでもなく、かといってリスナーの言いなりでもなく、バランスがいい。過去のバンド活動については、飲酒配信でこぼしていたことしか知らないが、自分に興味がないお客さんを振り向かせるのに必死だったと言っていたので、そこの辺の経験値も役立っているのだろう。


 みっくん自身のことで言えば、髪色がちょっと派手で、アクセサリーの量が多かったり、猫背で喋り方がチャラめだったり、そういうところもミキさんの警戒を招いていた可能性はあるが、少なくとも配信上では良好な関係まで修復できたようである。




※※※




「お疲れ様で〜す」


 配信後のプチ反省会でも、ミキさんからの好感度は変わらず高いようだった。まあハクトは元から高いのだが。


「クロノくんって意外とちゃんとしてるんだね。配信切れてるか異様に気にしてるのとか意外だったな」


 ミキさんの口からはそんな言葉も飛び出した。


「俺のことなんだと思ってるんすか。ハクトの地声事件みたいな事故は二度と起こしませんよ」

「あ、あれ本当に放送事故だったんだ。わざとかと思ってた」

「……まあ、あれのおかげで僕が前世疑惑から解放されたのはたしかですが」


 演者同士、仲良くなれたようで、運営としては一安心である。


「てか男とコラボして大丈夫だったんすか?」


 とみっくんが尋ねた際には


「別にバ美肉のゆんおじがいるvirtualaに入る時点で、その手のファンがいなくなるのは覚悟してるから平気。逆に私がクロノくんのファンに嫉妬されちゃったりして」


 そんな答えが返ってきた。クロノのファンのことまで気にしてくださるとは。


 すっかり感動して通話を切ったのだが、切った途端、最後のミキさんの言葉が気にかかってきた。確かに急速に数字を伸ばしたクロノのファンには、マナーがよろしくない人もいるかも知れないけど……。


 不安になった私は、得意のパブサをすることにした。コツは裏アカウントでめぼしいファンをフォローしておくこと。この際のアカウントは『見る専です』『低浮上です』など警戒されにくいプロフにし、誤爆を防ぐために鍵をかけておくことが望ましい。返信機能で絡んだり、下手にオタクになりきったりするとボロが出たときに困る。フォロワー数を稼ぐ目的でスパムを放置しているアカウントの場合は、エロスパムになりすますのもアリだ。フォローを返される可能性が低く、何も書きこまなくても不自然ではないからだ。ちなみに私のこの行動は、個人的に気になるからやっているだけで企業の意向では断じてない。


 エロスパムなりきりアカウントでチェックしている、自身もVとして活動していたりファンアートを描いたり、影響力があるオタクのアカウントから見ていく。クロノファンだと、初配信から頻繁にコメントをしてくれている個人勢Vtuberの闇月リズさん、コメントで喧嘩をして以降名物オタクになりつつある八代桜、よくファンアートを描いてくれている月下さんあたりをこのアカウントで監視している。


 概ね平和だったが気になる感想も見つけてしまった。月下さんだ。


月下@デジ絵勉強中🚦🔴⚫️(@longmoon)40分前

家族コラボ嬉しいけどもろに胸を強調したイラストにキャッキャしてるの複雑。🔵とかエロでBANされてるのに自覚ないのかな。ママさんあの絵で稼いで男二人にガヤさせてるのちょっと……。🔴の誕生日イラストなんか肌テラテラで顎尖ってて違和感すごかったし、男描けないハンコ絵師なのかな。🔵とか女の子の髪切っただけだし


 う〜む。眉間にシワが寄ってしまった。


 絵については私は描けないので、素人目線になるのだが、クロノの誕生日イラストもハクトの顔も、絵柄がそうなだけというか、そう見えるならそうなんでしょうね、私は好きですが、としか言いようがない。絵師さんだから見るところが違うのかも知れないけど、健全な批判というよりただの嫌味では?


 胸を強調したイラストというのは、SSRサンタセリーナのことだろうが、正直これは私もそう思う。セリーナというキャラはかわいいけど、サンタビキニコスチュームといい、腰をくねらせたポージングといい、露悪的な言い方をすれば男性向けソシャゲの集金イラストである。でも、それと配信でゲームを楽しむことは別問題というか、男性向けソシャゲのイラストがセクシーなのは客層的に当たり前だし……。


 ただ私はオタクで、そういう絵を見慣れているし、なんならもっと過激な商業BLを好む腐女子であるという性質上、感覚が麻痺しているところはあるだろうし、私は商業BLのやたら脱いだ表紙と股間を発光させとけば全年齢という風潮とあと二次創作やってる作家がそちらとそっくりな絵で商業を描くことには思うところが……って、おっと危ない、脱線してしまった。


 要するに、そういう感想を持つのは自由だし一理あるが、『家族コラボ嬉しいけど』という前置きや、絵文字で検索避けをして表立って攻撃はしていないアピールするところが、姑息で気に食わないな、と思った。本心は推しにミキさんがチヤホヤされているように見えてむかついただけでは、なんて意地悪なことも思ってしまう。ハクトに対してもトゲがあるし、クロノが好きなあまり他に不満を持つタイプに見える。


 素敵なイラストを描く人なのに、同担でいたらブロックするタイプの厄介リスナーになってしまっていて悲しい。あとファンマークをつけて愚痴を呟かないでくれ。クロノ本人の目に触れるかも知れないだろうが。


 パブサをしたことを後悔しながら、みっくんがこのツブヤキを目にしないことを願って、私はパソコンを閉じた。

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