第21話 蒼川ハクト:【感情交差点】オリ曲レコーディング配信! ゲスト:赤城クロノ【ボーカルmixしてみた】
「夜ですがおはようございます、蒼川ハクトです」
「はい、どーも赤城クロノでーす! 今日はレコーディングスタジオをお借りしています!」
「ゲストの赤城クロノさん企画の説明していただいていいですか?」
「りょ! えー。今回はオレ達のまあ得意分野といってもいいであろう音楽系の企画をしようということで、まずはオレ様立案、『ハクトのボーカルを録音して、それをオレがmixして音源にしあげてみた』略して『ボーカルmixしてみた!』イェーイ! パチパチパチパチ!」
「いえーい」
「あれ? ハクトくんテンション低くない?」
「気のせいです」
「イェーイ‼︎‼︎‼︎‼︎ 」
「……いぇ〜い‼︎‼︎‼︎‼︎」
機材環境の良さはピカイチの我がvirtualaだが、流石にレコーディングを行うには不安がある、ということで都内某所のスタジオをお借りしている。中の撮影許可はおりなかったので、音声のみ配信にのせ、配信画面には二人の立ち絵が出ている。画面の動きがないので、私が配信画面をいじって、
『下ハモレコーディング中』
のように字幕を出したり、表情を入れ替えたりして、何をしているのかわかるようにしている。
みっくんがmix(駄洒落みたいだが駄洒落ではない)できるのは知っていたが、なかなか面白そうな企画だし、せっかくのオリ曲はいくらでも擦りまくっていこう! ということで実現した企画である。
インディーズバンド時代にレコーディング自体はやったことがあるそうで、手慣れていた。アーティストのアルバム制作風景みたいな光景が目の前に広がっていて、テンションがあがる。ただアーティストの制作風景と違い、スタジオ側のスタッフさんは感じ悪めのおじさんが一人である。使わせていただけるだけありがたいのだが、着ぐるみでレコーディング風景を撮れないか打診をしたら、おかしな集団認定をされてしまったらしい。それはそうか……。
miroro「面白そう」
詩月サラ「クロノくんmixできたんだ」
にんにん丸「ええやん」
コメント欄の評価も上々。やったね。miroroさん詩月さんあたりはハクトの配信の常連である。にんにん丸さんは裏で大手の配信があるとこないけど、virtualaの配信をけっこう追ってくれている。モデレーターとしてコメント欄を見るのにもだいぶ慣れてきた。リスナーさんの個性がわかってきて楽しい。
「んじゃあ、早速歌っていただきますかね」
まずはノーマルバージョン、ハクトの普段の歌い方である。
今さら良かった、うまかった、なんていう必要ないけど、やっぱりハクトの歌はいいなぁという感想にならざるをえない。
「やっぱ歌うまいね。いいじゃん、いいじゃん。言う機会なかったから言わなかったけど、オレ様ハクトの声めちゃめちゃ好きよ」
「……あ、ありがとうございます」
クロノが誉めている。なんかてぇてぇ感じになっとる。いや私は腐女子だけど変な意味じゃなく……。
「そんじゃあ、今のノーマルバージョンでもう一回と上ハモと下ハモつけて、がなり強化バージョンとウィスパーボイスとじご……低めとあとちょっと鼻にかけたやつも欲しいな。まあいろいろとってこ。ブレスも欲しい。よろしく!」
多っ! と最初は思ったが、企画説明時のみっくんいわく、mix……というかボーカルを歌ってみたで聞くような音源の状態にするには、たくさんの歌い方から一番良い音を選んで繋ぎ合わせることが必要らしい。
よく『下手くそな歌をmixでうまくしてみた』みたいな動画を見かけるが、その手の動画で行われている作業は、うまい歌を音源にする時も必要らしい。
「は〜い」
画面の中のハクトを、ただでさえ垂れがちな眉がさらに垂れた顔に切り替える。
miroro¥500「クロノくんわりとスパルタw」
お、投げ銭が。コラボや一部のゲーム中など反応できない時の投げ銭については、別で枠を取ったり、後でまとめて読んだり、いろいろ方法があるが、どうするか本人と相談しよう。
うっかりですでにバレているハクト(の中の人)の地声だが、声幅の広さに、
にんにん丸「中の人かわったかと思った」
はなたん「意外すぎて草。カッコイイけども」
などなどコメント欄も喜んでいるようだ。
「コメント欄混乱してんじゃん」
ハクトの底にあるらしい多様な引き出しを、引っ掻き回せてご満悦のクロノ。
「でも好評っぽいよ?」
「んー、まあ、ありがたいですけど……」
「じゃあもう一回サビのとこよろしく」
ハクトの立ち絵を、嫌そうな顔に変えておく。色んな表情があって、この切り替え作業はけっこう楽しい。
「ほれ早く」
「えっと、こんな感じですかね」
サビを口ずさむハクト。何回リテイク出されてもしっかり歌ってくれるあたり、律儀な性格なんだなって思う。
「おぉ、やっぱうまいじゃん」
「ど、どうも」
飴と鞭の飴がうまいというか、クロノは褒め上手なのかもしれない。何回か細かい修正をしながら音を増やしていく。
「んじゃ咳払いもらってもいい?」
「さっきのブレスはわかりますけど、咳払いってどこに使うんですか? 」
「いいからいいから」
「じゃあいきますね。……ゴホッ! ゲホっ!」
咳払いってか咳だけど、ちゃんとできてる。なかなかどうして様になっている。うちのタレントもしかして天才では。親バカならぬ運営バカだけども。
「あ、そーいうのじゃなくて、もっとこう、せんしちぶな感じでお願いします。お色気お色気。お色気咳払いぷりーず」
「無茶ぶりがすぎません?! なんですかお色気咳払いって‼︎ 」
「ほらがんばろ? オレのためだと思って♡ 」
「うぅ……」
こういう無茶振り展開は面白いけども後でフォロー入れとこう。
ちょっと間があいてハクトが神妙な顔をしている。いろいろ言ってもやることはやるんだな。
「……んっ♡ 」
「あ、思ったよりまずい感じだから使わねーわ。ごめん」
「……」
「ごめんて」
気の毒だけど面白いから困るな。
「てかペド判定でチャンネル吹っ飛ばされたやつにやらせるべきじゃなかったわ。見た目だけとはいえガキにお色気はいらんわな。まったくもって。うん。コンプラとか関係なくダメなもんはダメだわ。ハクトはノーセンシチブ。常識常識」
「ぶん殴りますよっ?! 」
それは……ピコピコハンマーでなら殴ってよし。お前がやらせたんだろが。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます