第20話 赤城クロノ:収益化&1万人記念! 感謝の弾き語り歌枠
♪
いきなりアコースティックギターの生演奏。有名なアーティストの80年代前半の名曲。私も許可とるまで曲は知らなかった。画面に写っているのはハクトと同じ着ぐるみ状態でギターを弾いている姿と、ハクトの時の絵面がシュールすぎるという難点を緩和すべく、立ち絵も置いてある。要は声の人がギターもやっているアピールが必要だったので、次からは着ぐるみなしでも大丈夫だろう。
闇月リズの推し活チャンネル¥12,000「はじめて聴いたけど良曲〜。収益化おめ」
miroro¥10,000「収益化&一万人おめでとう🎉」
ハクメンV¥1,000「赤城さんおめでと」
歌いたいと言った曲がことごとく許諾をとるのが難しい、古かったり、バンドが解散していたりする曲ばかりで、遅くなってしまったクロノの収益化記念だが、こだわっただけあって好評である。
「ご清聴ありがとうございました〜。はい、どうも赤城クロノだよ〜。リズさん、ミロロさん早速投げ銭ありがとう! お前ら今の曲知ってる? アーティストはたぶん知ってるよ。ノース……」
クロノの配信スタイルは良い意味でハクトと対照的である。ハクトが歌唱力で殴るタイプなら、クロノは弾き語りラジオ形式というか、中の人の趣味を全面に押し出していく感じ。
「……そ。80年代J-popは名曲の宝庫よ、マジで。サブスク解禁してくれる人たちありがたやだね。えー、は……はる、春ポン酢さん、でいいのかな、呼び方は。『80年代はアイドルの宝庫』。わかる! 70年代後半から80年代前半はピンのアイドル強いよな。特に女性アイドルは名曲の嵐よ」
名前呼びのファンサはしつつ、テンポよくコメントを拾いながら音楽の話で盛り上がる。
「んでね、80年代はバンドもすごいんだよ。なんだろ、不良ブームというか反骨精神! ってムードが強いんだけど、なんか社会側にそれが流行ってるからなんだって余裕があるというか。イケイケな時代への憧れってあるじゃん。80年代、オレは好きだよ」
ランたそ激推し「イケイケ、死語では」
るうたそ「バブリーダンス流行ったなあ」
コメント欄も盛り上がっている。バブリーダンス懐かしいな。
ギターもうまけりゃ純粋な歌唱力も当たり前のように高いし、MCも面白いのは、インディーズでそこそこだったバンドのフロントマンの経験が活かされているのだろう。ハクトとはだいぶ系統が違う、ハスキーというかダミ声というか、かなり特徴的な声をしている。流行りの囁きイケボ系とは違うけど、印象に残りやすい、ロックシンガーらしい声をしている。美宇の慧眼、恐るべし。
曲がりなりにも音楽をご飯の種にしていた人間なので、原曲へのリスペクトも深く感じられるのも好感触だ。自己主張と原曲の再現のバランスが良いというか。
80年代から現在まで、ちょっとした解説を挟みながら邦楽の弾き語りを楽しむ。コンセプトもいいし、リスナー目線で定期配信してほしいクオリティだ。マネージャー目線だともうちょっと許可とりやすい曲、例えば歌枠の定番になっている音声合成の楽曲とかにして欲しいけど……。
絵面のわりに和やかな記念配信が進行していく。飲酒雑談に比べてコメント数も同接も低いのが気にはなるけど、時間帯も違うしなぁ。
「え〜。それでは、最後に、デビューからあまりユニットで活動してこなかった『感情交差点』ですが、なんとオリ曲作ることになりました! いえ〜い」
闇月リズの推し活チャンネル「え、すご」
miroro「トラックメイカー本領発揮?」
ハクメンV「88888」
「それじゃあ聴いてください。『シグナル』」
✳︎✳︎✳︎
か、神曲〜。
いや〜。一度聞いたけどやっぱいいな。エモい。うん。ちょっとずつ同接も伸びている。
「ありがたいことにオレとハクトと二人とも収益化させていただいたんですが、ユニットっぽいことできてなかったし、ユニ曲あったらいいなってことで作ったんだけど、お前らどうだった? あ。曲の間にコメントしてくれた人ありがとう。投げ銭もね。あ〜、なんか収益化したんだなって感じだね」
miroro¥1,000「オリ曲エモエモで良き」
ハクメンV「弾き語りだからかもだけどメロウな感じで意外だった」
闇月リズの推し活チャンネル「暗いの意外だけどすこ」
「miroroさんナイス投球ありがと。え〜、そんな暗いかな。お前らのオレのイメージって何? オレ様わりと暗い人げ……半人半魔よ」
「それこそ収益化もできるか不安だったんだよね。Vtuberやる前はバンドマンだったんだけど、人間関係のもつれとか方向性の違いとかまあもろもろで脱退とか解散繰り返してて。金になんか当然ならないし、聴いてくれる人も知り合いばっかで、まあ年齢も年齢で俺ってこんなもんかみたいな、ああ底が知れちゃったなって、でも売れるのがロックじゃない芸術じゃないって反骨ぶって虚勢はって、そーやって生きてたから、なんつーか俺が一番驚いてるよ。あk、……見つけてもらえたっていう運もあるしね」
私の言い方のせいで少し揉めてしまったが、伸びるきっかけになったとはいえ、個人勢のアカバ皇の名前を出さない配慮はしてくれたみたいだ。そういえば、この時間帯、アカバも配信していたからな。ツブヤイターを確認すると、少し前に終わっているらしい。
「収益化だ登録者一万人だっての、広いVtuber界隈見回せばいろいろいるんだけど、もっと規模も数字もでかい箱があるんだけど、でも俺は一年前はVtuberのVの字も知らなかった人間なんで、一万人の人が配信なりなんなり見よっかなって思ってくれてるの、やべぇなすげぇなって思うよ。同接だって三桁後半とかいくこともじゃん? バンドマン、三桁の動員いくまでめちゃくちゃ苦労するからね。道端で歌って百人の人間が集まるかって話だよ」
「そういう俺がここに立てているのは、見ていてくれてるお前ら一人一人のおかげだよ。最近全員に返事できてなくてごめん。でもちゃんと見てるよ。俺をオレにしてくれてるのはお前らだよ。だだっ広いインターネットでオレを選んでくれてありがとう。本当に感謝してる。たまにキメェなって発言あるけど」
miroro「おいwww」
ハクメンV「キモくて悪かったな! これからも応援してっぞ!」
桜木マチ@個人勢「あげて落とすスタイル」
「しんみりしちゃったな! 悪りい!」
赤城クロノの収益化、登録者一万人記念の配信は和やかに進んでいたのだが、
「これからはコラボも積極的にしていきたいんだよね〜」
そんな当たり障りのない話をクロノが始めた時から、歯車が狂いだしたのだった。
にんにん丸「ヘマすんなよ」
「ヘマってなんだし! ちゃんとやるから大丈夫だよ」
ハクメンV¥100「ちゃんとやる(フラグ)」
「そんなコメントに100円使うな! ハクメン……
miroro「箱外コラボは?」
「あ〜したいね。ご縁があれば」
アカバ皇¥1,000「収益化おめ! オリ曲も良かったです! コラボもしたいね」
先ほど名前を出さないことで鳩対策をしたばかりなのに、ご本人登場である。このタイミング、おそらく少し前からタイミングを伺っていたのだろうか。こんな配信終了後すぐのタイミングで見にくるとは。ふと見ると同接も妙に伸びている。
にんにん丸「え、本人?!」
technicall「アカバがオタクみてえなコメしてて草」
ミラっこ「陛下がキタ――(゚∀゚)――!!」
腹筋バッキー「アカバ皇†降臨†」
皇の民A「でたわねアカバ」
ゆうな「アカバさんきてるよ」
ここぽん「アカバさんいる」
八代桜「アカバさんいるぞ気が付け」
ささしろ「すめらっさんもよう見とる」
いやお前ら今までどこにいたよ。急にコメントの速度が速くなる。う〜ん。民度とか言い出すのは厄介の兆候だけれども、言いたくなるくらいにはアカバの名前を躊躇なく出すリスナーが多いなぁ。クロノの収益化と一万人記念の配信なんだけども……。
「え、あ、アカバ
ゆうな「名前ちゃんと読めてえらい」
technicall「酒カスニキとは思えない綺麗さ」
腹筋バッキー「おっ○いソングの人とは思えない†良曲†」
ミラっこ「てか着ぐるみで草。3Dないの?」
皇の民A「おっぱいの人ユニとかあったんだね」
八代桜「左利きなの? ギターやるなら直した方が良い楽器使えね?」
ささしろ「素面の酒カスおっぱいニキ初めて見たかもw」
ここぽん「今日は酒飲まないの?」
ピキるなピキるな。落ち着け私……。
配信内で他のVtuberに言及する行為について私は
「配信内で他のVtuberに言及するのは、配信やってる人にとってはその人に興味ないって取られかねない」
と言った。思えばみっくんの機嫌が悪くなったのはそこからだ。もちろん私の話題の出し方が嫌味っぽくなってしまったせいもあるけど、こうなることを薄々察知して悲しかったのもあるんじゃないだろうか。こうなること、というのは、アカバの話題が出たらそちらに食いついて、クロノに興味がないと取られても気にしないようなリスナーが多いということだ。
酒カスだのおっぱいソングだのバズった切り抜きとあと少しの配信でしか出ていないキャラがクロノの全てではないし、良さでもないので、オタクとしては非常に腹立たしい。が、運営としてはライトなリスナーも楽しめる方が裾野が広くなっていいし、配信は全部みろ! 一面だけ見て騒ぐな! の行き着く先は狭くてギスギスしたオタクコミュニティだ。
難しいところではある……が、なんともモヤモヤする収益化記念配信になってしまった。
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