第24話 ギンガミキ:【祝】日頃の感謝を込めて♪【3周年】

「こんミキ〜。バーチャルイラストレーターのギンガミキで〜す」


 ひらひらとこちらに手を振る3Dモデルの美女。本日は我らがvirtualaの立ち上げメンバーにして、感情交差点のキャラクターデザインと2Dモデリングも担当してくださったギンガミキさんのV活動3周年記念配信である。


 もともと漫画家として活動されていて、美少女の日常系、いわゆる萌え漫画を描いていたのだが、Vtuberとしての活動にも興味を持ち、個人勢として活動を開始したのが三年前の今日と言うわけだ。


 活動当初は漫画家としてのペンネームそのままの『きみかみき』名義だったが、virtuala所属にあたって改名。他二人が『宇宙』『天河』と星に関係する名前であることからギンガミキになった。


 見た目はミルクティー色の外巻きボブに紫色の瞳。袖に黒い縞模様が入った白のロンTに、黒のショートパンツ。黒のルーズソックスとスニーカー。プロデューサー巻きにした黒のカーディガンがポイント。頭には猫耳っぽくも見える黒のリボンと、漫画家らしくベレー帽をつけている。


 活動内容としては、圧倒的にお絵描き配信が多い。長く漫画家を続けている実力者ながら、流行を積極的に取り入れ、新しい画法を試す配信も多く、本人いわく『誰が描いたかわからないけどうまいなって思われる絵を描きたい』とのこと。近年はソシャゲのスチルも数多く手がけていて、漫画家というよりイラストレーターとしての活動が多い。配信はそう頻繁ではないが、根強いファンがいるイメージだ。


ytc9999¥10,000「こんミキ。3周年おめでとうございます」

ゼット¥10,000「こんミキ〜」

ろぶすたぁ¥12,000「3周年おめでとうございます」

ミョントス¥50,000「アーカイブ視聴代です」


 見慣れないユーザーばかりが次々とコメントしている。ミキママのリスナー層は感情交差点とはかぶってないみたいだ。記念配信とはいえ、飛び交う額がものすごくてびっくり。ちなみにアーカイブ視聴代とは、配信今忙しくて見れないけど後で見ますよ、と言うアピールである。本当に視聴に料金がかかるわけではない。


 モデレーターを任されているわけではないのになぜミキさんの配信を見ているかと言うと、趣味もそりゃあるけど、クロノに任されたビデオメッセージがちゃんとしているか確認できなかったからである。配信三日前にビデオメッセージを送ることになり、二人まとめて私が確認してミキさんに渡すことになっていたのだが、動画作成が早いハクトはともかく、クロノは遅れていたので本人がミキさんに直接送った、ということを送った後になってから知った。つまりミキさんの手元には私が確認していないクロノからのメッセージ動画があるわけである。お祝い動画という性質上、本番でいきなり視聴。ちょっと不安だ。


 気にしてもしょうがないかもしれないけれど、なんとなくソワソワしてしまうので、こうして配信を見ているわけである。業務時間にやっているわけではないから大丈夫、給料泥棒はしていない。


「夜ですがおはようございます! virtuala一期生、ユニット感情交差点所属、蒼川ハクトです。三周年おめでとうございます!」


 まず流れたのはハクトのメッセージ動画。確認した時も思ったけど、態度の真面目さだったり、ハキハキした喋り方だったり、嫌味なく好感がもてるところは、ハクトの良さだと思う。着ぐるみに乗り気だったり、謎に歌に自信がなかったり、なんかズレているというか、ちょっと天然なところも個人的には人間味があっていいと思う。


ろぶすたぁ「蒼川くんいいこ」

ぷりんどん「さすがミキちゃんの子、顔が良い」

ytc9999「ハクトくんすこ」


 ミキさんのところのリスナーさんからも受けがいいようだ。


 デビューから一ヶ月半が経ち、ハクトのチャンネル登録者数は約三千人。箱推しのリスナーさんも多いが、徐々に固定リスナーを掴んでいる印象。堅実健全ついでに健康的。安心してみてられる。


 問題はクロノだ。大丈夫か……?


 ちなみにクロノのチャンネル登録者数はもうすぐ三万人。アカバのプッシュもあるが、おっぱいソングとかこの前のリスナーとの喧嘩とか、もはや恒例になりつつある飲酒配信での迷言集とか、切り抜きでのプチバズが多く、特にvirtualaを見ていなかったリスナーが中心。mix配信でファンアートを描いてくれた絵師さんがかなりの頻度でファンアートをあげてくれるなど、ファンの熱量も高い。


 問題の動画は……


「お誕生日おめでとうございます‼︎‼︎‼︎」


 ああああああああああああ。画面の前で頭を抱えてしまった。誕生日じゃなくて3周年記念です馬鹿野郎が!


 凍りつく空気。やらかしてくれるねぇ!


「お前は勘当だバカ息子〜!」


 ミキさんがうまくギャグにしてくれたが申し訳なさすぎる。運悪く当人みっくんはバイト中である。謝罪はスピードが大事だ。配信が終わったら私から謝っておこう。




※※※




「誠に申し訳ありませんでした……」


 配信終わりに連絡をとったところ、時間が空いているそうだったので、通話で謝罪をさせていただいている。ミキさんとの初通話がこれになるとは……。


「いや、まあ、恋沼さんのせいではないけどね。私も流す前に確認しなかったし」


 気まずすぎる。さすがミキさんは大人なので、怒りをぶつけられたり露骨に嫌味な態度とられたりはしないけど、だからこそ申し訳なくて縮こまってしまう。


「あの……恋沼さんも大変だね。ハクトくんは良い子だけど、クロノくんはほら、あんな感じだから」

「ええ、まあ」

「配信内容もまあまあ過激だし、アカバすめらぎに目をかけられて伸びてるのも……ねえ?」

「はあ……」


 まあ私もアカバは好きではない。でもクロノの伸びが、アカバが継続的に取り上げてくれていることによるものであることも事実なので、なんとも……。


「伸びてるけど、mix配信の時にハクトくんに当たりが強いのも気になったな。ユニットだから仲良しこよしやれとは言わないけど、顔が幼いことイジってたの、その顔描いた人としてはちょっとムッとしたというか。もしかしてクロノくんって自分の顔気に入ってないのかな」

「へ? いやいやいやそんなことはないと思いますよ。よく自分でイケメンって言ってますし。初配信からしてラーメンつけ麺〜って言ってましたし」

「でもつけ麺なんでしょ?」


 それは、とちっただけだと思います、さすがに。


「最近クロノくん、私の絵とはテイストが違うファンアートばっかりサムネに使っているじゃない? もともとオタクってわけじゃなさそうだし、ザ萌え系な私の絵より、ロックバンドのジャケットになりそうな感じのお洒落なイラストの方が好きなんだろうなって」


 ミキさんのいう、私の絵とはテイストが違うファンアートとは、mix配信の後にイラストをあげてくれた、月下さんというアナログ絵師さんの描くイラストである。確かにロックバンドのジャケットになりそうな感じの雰囲気はある。リアル寄りというか、アナログイラストだからか、ミキさんの描く立ち絵とはだいぶテイストが違う。


 別にみっくんは萌え絵が苦手なわけではないと思うし、ミキさんが描いて下さったクロノには思い入れもあるように見受けられるけど、サムネやおはようツブヤキに頻繁に使うなど、月下さんのイラストを気に入っているのも確かだ。私は絵は描けないから、この辺りに口は出せないな……。


「そりゃ私は男描くの下手だってよく言われるけどね。衣装考えるのも得意じゃないしさ。ハクトくんも立ち絵公開の時に男の娘じゃないかって言われてたし、なんだかんだ萌え絵描きだから、ファッションセンスとイケメンの描き方は自信ないんだ」


 いやいやいや。これはオタクとして言わねばならないことがある。


「いやミキママのイケメンは国宝なので! いいですか? 普段美少女しか描かない絵師さんの描くイケメンからしか得られない貴重な栄養素があるんですよ。女の子のキラキラな瞳やふわふわの髪の毛ばっかり描いている人にしか出せない旨味ってあるんです。もちろんハクトはかわいいですが。かわいいですが、あくまで男なのが重要なので。男の娘はそれはそれで美味しいですけど高級チョコレートとフォアグラくらい栄養素が違うので。というかというか、クロノのデザインも顔も素晴らしいという言葉では言い表せないくらい素晴らしいので。デザインが神だからファンアートのクオリティも高くなるんですよ。顔面だけなら感情交差点はどんな乙女ゲームにもソシャゲにも負けませんから。てか広い二次元イラストでも唯一無二ですから!」


 オタクの長文をぶちまけてしまった……。でも本当のことだもん。……唐突にミキママ呼びしてしまったのはだいぶキモかったけども。幸いミキさんはその手のキモさには寛容だった。


「ありがと、なんか元気出ちゃった」


 そこから少し雑談をして、通話を切る頃には、私たちはちょっとだけ仲良くなれたのだった。

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