祝☆収益化! どんどん配信しよう!

第18話 蒼川ハクト:収益化記念! リアルすぎる毛ガワで人気曲を歌って踊ります。インターネットで流行ってる楽曲、収益化したVtuberなら歌って踊れる説

miroro「リアルすぎる毛ガワ……?」

ランたそ激推し「要は着ぐる……なんでもない」

太郎「初見です。なんだこれは」


 困惑気味のコメント欄。それもそのはず、配信に写っているのは白い犬の着ぐるみ(頭部)を被った、ハクトと同じ格好の人物である。部屋は兄ビルの中にある、窓のない狭い和室。まあ要は実写カメラ枠だ。


 つい先日、十二月のライブで使う着ぐるみが完成した。なぜ着ぐるみでライブをすることが決定しているのか、気になったので代表にきいてみたところ、


「みっくんがライブをやりたいとずっと言っていたから。頭部だけの着ぐるみなら3Dより安いから、ライブやらないことになってもいいかなって。なんなら一期生でデビュー予定だった子のぶん全員発注かけたけど半分キャンセルだからね……ハハッ」


 と暗い瞳で言われた。そうか……。ちなみにオーダーメイドなので頭だけとはいえクオリティはけっこう高い。


「はい、おはようございます。蒼川ハクトです! 収益化記念ということで、新しい姿のお披露目なのです。超美麗な毛ガワです。獣の姿もあるのですよ。半人半魔なので」


ランたそ激推し「獣の姿もある(圧)」

miroro¥10,000「収益化おめでとう🎉」


「え⁈ も、もう投げれるんですか⁈ み、み、miroroさんありがとうございます。いいんですか? いちまんえん……あ、ありがとうございます。もっと長文かいていいですからね」


詩月サラ¥1,000「絵面のシュールさに笑うけどおめでとう」


「詩月さんありがとうございます。何がシュールなんですかね? ありがとうございます」


 コメント読みも慣れてきたようで、成長ぶりが凄まじい。一カ月前は素人だったとは思えない。


「え〜。サムネにあります通り、今回は歌って踊る枠ということで、ルール説明をさせていただきますと、今からランダムで人気楽曲が流れます。それをボクは歌って踊れるのか、というチャレンジです。カンタンですね! まあないと思いますけど、覚えてないところはアドリブで乗り切ります! ちなみに許諾から音源セットするところまで運営さんがやってくださっているので、カンニングはしてませんよ」


 ちなみに振り付けの許諾というのがなかなか厄介で、いろんなところをたらい回しにされた。デビュー前からやりたいと言っていた企画だから成立した配信である。


 実はデビュー前から準備している企画はいろいろあるのだが、偽前世騒動で荒らされて潰れたNG無し質問コーナーなど、できるかどうかは直前までわからないことが多い。


「それじゃあ、やっていきましょう!」


miroro「うま……」

詩月サラ「うっま」

にんにん丸「いやうますぎか」

はなたん「うま」

ランたそ激推し「うますぎんだろ」


 語彙力の死につつあるコメント欄。わかる。超わかる。わかりみが深い。謎の自信のなさからイロモノ企画で初披露となったハクトの歌声だが、本当にうまいのだ。


miroro「てか踊れる人なのね」


 コメントでも指摘されている通り、ダンスもうまい。なんと七歳からジャズダンスを習っていて、子役としてミュージカルに出てたというから驚きだ。先に言え先に。


お嬢様とお呼び「クオリティと絵面があってねぇwww」

ももぶん「アドリブの振り付け普通にすこだからオリジナルでやれw」

にんにん丸「謎の着ぐるみが、味がある和室で踊る世にも奇妙な映像」


 企画としてどうかは要検討だが、概ね好評でよかった。


ハクメンV「画質微妙」


 というコメントは、ぶっちゃけ運営のせいなので、次はなんとかしなくては。ちなみに三脚で固定しているので画角が変わらないという欠点もある。いろいろと書き込まれていたコメント欄だが、


「ありがとうございました〜」


 ハクトがぺこりと頭を下げる頃には、温かい空気に包まれていた。


「みなさん温かいコメントありがとうございます。こ、この通りボクってだいぶ緊張しいで、人前に出るのはあまり得意じゃないんですけど、で、でも表現することが好きで、ほんとはこうやって人を楽しませることが好きで」


「だから、だからVtuberになってよかったです。まだ活動してそんなに日が経ってないですけど、この場を借りてお礼がしたいです。いつもご視聴ありがとうございます。配信に来てくれる人、アーカイブ見てくれる人……再生数は一かもしれないけど、あなた方のちょっとの行動が『蒼川ハクト』を作りあげているから」


 コメント欄は温かいまま、ちょっとしんみりした空気に変わった。


miroro¥1,000「これからも応援してるよ」

ハクメンV「ちょっとした応援いい言葉」

ランたそ激推し「箱盛り上げてってな」


「miroroさんありがとうございます。ランたそ激推しさん『箱盛り上げてってな』……そうですね。代表はじめ0期の皆さまの努力のうえに、こうして恵まれたデビューをさせていただいているわけですから、チャンネル登録者数はもっと伸ばしていきたいですね。同期のクロノとか今すごい伸びてますし。ボクも頑張ろうとは思ってますよ」


miroro「クロノ呼び?! 」

ハクメンV「クロノっつった!? 」


 コメント欄の一部が色めきだっていて気がついたが、そういえばハクトはクロノを『赤城さん』と呼んでいた……はず。ツブヤイターはともかく、配信でそこまで徹底していたかは全配信見ていても自信がないが。裏だと普通にみっくんとか三ツ星おりおんとか、そもそも名前を呼ばないとか、けっこう打ち解けているので、そういえばそうだったな、という感じ。


 でもリスナーさんからすれば、目に見えた関係性の変化なわけで、そういうのが好きな層が食いつかないはずはない。ちなみにVtuber同士の関係性が好物なのは、何も私が忌み嫌うカップリング厨(BL/GLを含む)だけではなく、わりとVオタク界隈の多数派である。いわゆる箱推し、企業やグループごとにVtuberを推す人たちもこの中に入るのではなかろうか。厄介からライト層までいろいろなオタクが好んでいるイメージである。


「ゔぇ、クロノとか呼びましたボク? あは。赤城しゃんはすごいなって、その、えーっと、そういう、は、話ですね。ハイ」


 食いつかれると思っていなかったのか、ハクトは困惑している、


赤城クロノ/Krono.ch-感情交差点🔧「そうだぞ。クロノ様をたたえてけ?」


「なんでいるんですか!」


 そうだよ聞いてないぞ。あと数分でバイトの時間だろうが。ちなみに🔧マークは私と同じモデレーター権限を持っていることを示すマークで、virtualaでは所属Vtuberはお互いのチャンネルでこの権限を持っている。


赤城クロノ/Krono.ch-感情交差点🔧「たまにはのぞこうかな、と。赤城はハクトきゅんのこと気にかけてんだよ〜」


「うざっ。赤城さん次コメントする時は予告してくださいね」


赤城クロノ/Krono.ch-感情交差点🔧「はーい、ほーい、へーい、わっかりやしたー」


「絶対わかってないだろ」


miroro「シンプルにうざくて草」

ハクメンV「なんだただのてえてえか」

詩月サラ「貴重なタメ口ハクト助かる」


 ハクトも本気で嫌がっている様子ではないからか、コメント欄は盛り上がっているが、クロノのこの行為、わりと嫌がられることが多い。みっくんには釘を刺しておかなきゃなぁ。

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