第17話 大酒飲みのエレジー side三ツ星
またやってしまった……。
真っ昼間の自室に覚えのない空き缶が転がっている時ほど、自己嫌悪に駆られることはそうない。
昨夜は何があった? 回らない頭を動かしながら、スマホを起動して記憶を呼び起こす。ああ、そうだ。
深く深く息を吐く。
帰ってきて、配信の準備をして、それまでは良かった。ツブヤイターをのぞいて急増した反応に、ありていに言えばビビってしまい、緊張をほぐそうと手を伸ばしたのが酒だった。
アーカイブを見る勇気がなく、エゴサーチだけしたが、少なくとも炎上はしていないようだ。
酒を飲んで仕事をするな、と言うのは正論だが、正論で生きていられたらここにはいない。配信で弾いていたらしいギターはきちんと所定の位置に戻っていて、そこだけは昨夜の俺を褒めてやってもいいだろう。
初めてギターを買ったのは十四歳の冬だった。お年玉を切り崩して、ワクワクしながらギターに触ったその日も、親父は酒を飲んでいた。
中学時代。震災で小学校の卒業式がなくなってから、俺の子ども時代はそれまでの色彩を失い、セピアとも白黒ともいいがたい暗い色を帯びていた。
小学校時代の友達がいないバスケ部に入り、うっかりレギュラーの座を奪ってしまったばかりに、いじめの標的になった。今思えばよくある話で、移り気な中学生がいつまでも俺ばかりいじめているはずがなかったのだが、追い詰められた俺は、思い出すのも恥ずかしい事件をいろいろと起こした。孤高を気取り、実際に孤立し、イタい中学生だった。
ちなみにバスケがうまかったわけではない。身長が高かっただけだ。弱小チームだったから、そんな理由でレギュラーになれた。
三ツ星と書いてオリオンなんてふざけた名前をつけたのは親父だ。なぜこの字なのか。名前の由来は本当に夜空に輝く星座なのかどうか、気になったことはあるが、尋ねたことはない。俺の記憶の中の父は、どうしようもない飲んだくれで、その傾向は俺が成長するにつれ酷くなった。
でもロックが好きになったのは父の影響だ。小さい頃はよくドライブに連れて行ってくれた。父のかけるラジオが、俺の音楽の原点だ。父の語るロックスターが、俺にとってのヒーローだった。だから俺は音声合成のプロデューサーでもラッパーでもなく、バンドマンを目指した。今でも、俺にとってのカッコイイは、あの車の中のラジオにある。
初めて弾いたギターは、この狭くて辛くて息苦しい世界に結界を張ってくれた。音楽は居場所だった。視野の狭い中学生には唯一の逃げ場所だった。音楽はいつだって応えてくれた。ギターを弾くことは、逃避であり祈りであり救いだった。
両親は俺の高校進学を待たずに離婚した。俺にはギターだけが残った。
闇月リズ@Vtuber応援系Vtuber (@YamitukiRizu)13時間前
virtuala一期生デビュー前はどうなることかと思ったけど、やっぱランたそのとこだけあってしっかりしてるな。ちなクロノくん推しです(←聞いてない)
virtualaのオタク(ランたそ激推し) (@rantasoLOVE)13時間前
赤城くんは飲酒枠多めですね。なんでも話しちゃうぶっちゃけキャラという印象
ああいう鉄砲玉キャラもいるとますます箱が元気になりますな
微糖コーヒー (@sugerlowcafe)13時間前
virtualaの赤城クロノくん? ちょっと気になる
ハッシュタグがつけられていない反応をこわごわ見てみても、短期間でリスナーが増えたにも関わらず、肯定的な反応が多い。ありがたいが、少し怖い。
バンド時代とは比べ物にならない数のファンが俺……いや『赤城クロノ』にはついている。ツノをもつ黒髪の青年はオレであって俺ではない。単に
無知のヴェール。そんな言葉が頭に浮かぶ。何の先入観もなく判断する状態。公民の田中の言葉が正しければ。クソガキ以外の何者でもなかった中学時代の恩師の言葉。勉強は好きではなかったし、高校は中退しているけど、田中の公民の授業と、あと国語は好きだった。
クロノは性別も声も俺と同じだが、それ以外わかることといえば半人半魔という
ヴェールが破れないように、でも大胆に、飽きられないように。望んで立った舞台なのに、当てられたライトが眩しすぎて目が眩む。足元をしっかり見ていなければ。踏み外してしまわないように。
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