いよいよデビュー! ハクト迷走編?!
第9話 記念すべきデビュー配信 蒼川ハクトの巻
今日は記念すべき日。緊張する……。
「えー。本日はお日柄もよく……」
「前置きいいから本題いこーぜ」
「恋沼さんの話を遮らないでください」
「だってこの手の話クソ長いじゃん」
「あなたがいちいち話の腰を折るからですよ」
……前途多難である。
説明しよう! 私、恋沼ひかるは男性企業Vtuberユニット『感情交差点』のマネージャー。元ニートのもうすぐ二十三歳。ユニットは本日デビュー! ドンドンぱふぱふやったね! デビュー前夜にいろいろありすぎたが、ショートと広告で二人ともチャンネル登録者千人を突破。配信を始めて再生回数が追いつけば、収益化が見えるラインまで来た。
「
「僕はこういう話し方なんですよ……」
「別にいいけどさぁ。俺が馴れ馴れしいやつみたいじゃん」
「すみません……」
なんやかんやと話している二人。大輝が押され気味である。三歳差と微妙な年齢差ゆえか距離感はあるが、それなりに仲良くなってそうなのはよかった。他の企業のことはリスナーから見える部分しか知らないけれど、いわゆる同期は仲が良い方が、外にはもらせないこととか運営には聞きづらいこととか、相談する相手ができてよかろう。
「デビュー配信ハクトからだぞ。頑張れよ」
「あ、は、はい。頑張ります。緊張する…‥」
ともかく今日私がすることは、二人の激励と配信の見守りである。ハクト、クロノの順番で、それぞれ三十分自己紹介をする。私はモデレーターとして、変なコメントがあればチャットから追い出し、スパムは通報する。本人たちよりよほどソワソワしながら、私はその時を待った。
今はまだ無名も無名の彼ら。チームとしてもまだまだの私たち。でも私は彼らの才能を信じてるし、大好きなVtuberの世界に裏方として関われるのはとても嬉しい。物語は今、この時から始まるのだ。
※※※
「おはようございます。みなさん初めまして! 蒼川ハクトです!」
ハクトの配信が始まった。大輝の地声からは想像のつかないゴリゴリのアニメ声。どっから出てるんだろうな、この声。
「音量大丈夫ですか?」
ハクトの呼びかけにコメント欄が反応する。
ランたそ激推し「大丈夫」
miroro「だいじょぶだよ〜」
にんにん丸「BGM大きいです」
「あ、BGM大きいですか? 今調整します。え〜っと、あ〜っと。え、ボクの声小さくなった? え、あのコレいじったらいいはず……えっと」
黙らないようにしているのが裏目に出ているのか、えっとを連発しながらBGMを調整する。中の人もそう言ってたけど、緊張してるみたいだ。私は別室にいるけど、あんまり苦戦するようだったら助けに入ろうかな……と思っている間に調節できたみたいだ。ちなみにランたそとは、弊事務所の代表である宇宙ランのこと。
現在のVtuberの主流であるいわゆる『御三家』ほどではないが、箱バフといわれる事務所の他メンバー推しがチャンネル登録をしてくれる現象は、代表が彼氏バレ炎上をしている箱にも存在するようだ。デビュー配信時点でチャンネル登録者が千人を突破しているのは、Vtuber飽和時代ともいわれる現代において、かなり健闘しているのではないだろうか。まあ御三家所属だと、初配信時点で登録者十万人とか全然あるのだが……。
せっかくなので事務所の立ち上げメンバーを紹介しよう。敬称はいったん省略させていただく。
まず、彼女がいなきゃはじまらない、中の人が我が親友にして、事務所代表コスモハムスター族のプリンセス宇宙ラン。漫画家としてのキャリアもあるセルフ受肉勢で、『感情交差点』のキャラクターデザイン・2Dモデリングも手掛けてくださったギンガミキ。同じくセルフ受肉かつバ美肉おじさん3Dモデラーで、元エリート会社員で脱サラの星でもある天河ゆんの三人。セルフ受肉とはバーチャルの見た目、要はガワを自分で作っている人のこと、バ美肉とは美少女のガワで活動する男性のことである。
これまでの箱推しリスナーは、圧倒的に男性が多かった。だからこそ宇宙ランの中の人に彼氏がいれば炎上するし、男性ガワの男性であるハクトとクロノが受け入れられるかは不安があった。もちろん今までの箱推し全員が受け入れてくれたわけではないが、ある程度登録もしてくれているし、デビューくらいは見てやろうと集まってくれているようだ。
「改めまして、virtuala一期生、ユニット『感情交差点』所属の蒼川ハクトです。よろしくお願いします! あ、挨拶は時間関係なく『おはようございます』でお願いします。配信の始まりは一日の始まりだと思って気を引き締めていきたいので。あと芸能人みたいでちょっとカッコイイでしょ?」
音量を無事に調整できたハクトが、パチンとウインクを決める。白い髪の毛がふわっと動いてかわいい。
miroro「かわいい」
詩月サラ「挨拶こだわり勢?」
「じゃあ自己紹介に移らせていただきます」
事前に用意してもらったスライドに画面が切り替わる。まだコメントを気にする余裕はないみたいだ。
「え〜、まず名前は蒼川ハクトです」
詩月サラ「名乗るの三回目だよ笑」
にんにん丸「落ち着けwwwwww 」
「で、種族が半人半魔。同期兼ユニットメンバーの赤城クロノと一緒です。だいぶ見た目違いますけど、まあ魔族といっても色々いますので。赤城さんとは事務所を通じて知り合った感じです。半分魔族ですけど、生まれも育ちもバーチャル日本です」
この辺りの設定は後々ボロが出ないように設定してある。変にクロノと幼なじみ設定とか大親友とか、モ○っぽい見た目にあわせて山育ちとかにすると、ぽろっと矛盾すること言いやすいからだ。
「特技は、声真似です」
そう言って披露した声真似は、女性キャラクターからおじいさんまで、結構なクオリティで、リスナーからも好評だった。
「好きな食べ物はクリームソーダです。近頃、純喫茶が流行ってて、ちょっと凝ったやつあるじゃないですか。あれが好きです。ファミレスの舌が緑になるメロンソーダも好きですけどね。基本的に甘党です。嫌いな食べ物は辛いもの全般ですね。嫌いっていうか食べれないので」
にんにん丸「クリームソーダは飲み物じゃ」
miroro「純喫茶いいよね」
ランたそ激推し「これはペヤ○グフラグ」
早くも特定のリスナーにコメントが偏りがちであるものの、スパムや荒らしはいない。モデレーターとして頑張るぞ! と息巻いていたが、幸いにも活躍の場はないようだ。あまり歓迎されていない男ユニットとはいえ、事務所箱推しの民度はいいようだ。同時接続数もまあ……悪くない。
「あとでツブヤイターにまとめますけど、タグは#蒼川ハクト、配信タグは#ハクト配信中、ファンアートは#ハクト画廊でお願いします。ファンアートはサムネイルや動画などで使わせていただくことがございます。それで、ファンネームなんですけど、このあとデビュー配信の赤城クロノくんとユニットを組んでいるんですが……これ何回も言っちゃってますね、すみません、共通で『歩行者』です。ファンマークが信号🚦と青丸🔵と白丸⚪️なので、ぜひツブヤイターのプロフに書いてくださいね」
ミルキーチャーム「レヴァンティン?」
みるくん「レヴァくんじゃん」
あれ? なぜか急に関係なさそうなことを書きこむコメントが増えている。レヴァンティンって誰だ? とりあえず『レヴァンティン』『レヴァくん』をワードミュートにし、その単語を含むコメントを書き込めなくした。後で調べよう。
「ご清聴ありがとうございました。ご機嫌よう〜」
最後だけやや不穏だったが、ハクトのデビュー配信は概ね順調に終わったのだった。
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