第7話 バズれ! 自己紹介ショート!
「どっちからやる?」
「はあ、どちらでも……」
「グリンピースで決めよーぜ。グリンピース!」
いや、どっちでもいいので早く決めてほしいんですけど……。熱戦の末、みっくん、つまりクロノの自己紹介ショートから見てみることになった。二人とも乗り気だったので、特に問題がなければ、そのままアップすることになりそう。
「はい、どうも〜赤城クロノです。virtuala一期生、新進気鋭、半人半魔の新人Vtuber! ユニット『感情交差点』赤色担当、作詞作曲とギター演奏が得意」
2Dの姿に、突如現れるフリー素材のギター。絵面はシュールだが、得意というだけあって、ワンフレーズかき鳴らしたエレキギターはかなり上手だった。素人目線ではあるが。ちなみに『感情交差点』というのは一期生の中でさらにユニットを組んで売り出そうとしていた時の名残りである。結果ユニットがそのまま一期生になってしまったので、色々と紛らわしいのだが。ちなみにvirtualaでは事務所立ち上げメンバーである宇宙ラン(美宇)、ギンガミキ、天河ゆんの三人を0期生、立ち上げメンバーと称する。
2Dだの3Dだのは、Vtuberにとっての身体を動かす技術である。最近の主流は2Dでデビューし、3D化。クロノもハクトも現在は2D。二人のキャラクターデザインを担当していただいたギンガミキさんが、モデリングも担当されている。Vtuberに馴染みがない人でも知っていそうな技術でいうと、ソシャゲのスチルなどで髪や胸が揺れているのは2Dの技術が使われている。
「チャンネル登録よろしくね!」
RealTubeでお馴染みの言葉で締めくくったクロノのショートは、ギターという強みを生かしていたし、悪くはない。が、
「素人質問で恐縮ですが」
「改まって何、ひかるちゃん」
あ、みっくんの中ではもうひかるちゃんで固定なんだ……ってそれは置いておいて。
「……背景の白無地は意図がある? ならそれでいいけど。あと表情が硬い。箇条書きの音読感がすごい。字幕は出した方がいいと思う」
「うわぁお。わりと辛辣。白無地の意図は特にないカナ☆」
星の数ほどいるVtuber。ちょっとしたクオリティの甘さは、スワイプの原因になってしまう。お節介かもしれないし、合ってるかもわからないけど、口出ししたくなってしまうオタク心。
「フリー素材のサイト共有するからいいの見繕って。でも背景が主張しすぎるのもよくないからシンプルめがいいと思う。あと最初から全身写してたけど、顔覚えてもらいたいし、アップの画角もあるといいかも。ギターもイラスト風の素材使ってたけど、クロノの画風とマッチしてなくて浮いてたから、他の素材も見てみて。ギターといえばレフティなのはわざと?」
「よく気がついたね。俺が逆弾きレフティだから合わせた」
「逆弾き?」
「俺が言ってるだけで正式な用語じゃないと思うけど、右利き用のギターひっくり返して弾いてるってこと。左利き用のギターは種類が少ないからね」
「へえ。その話、面白いからどっかで使ったらいいと思うよ」
「そうかね」
「全体的に強みがわかってよかったと思う」
「いや良かったんかい! 褒めるなら最初にもうちょっと褒めてよ」
「以後気をつけます」
クロノのショートはまあ予想通り、というか、事前の情報通りの動画だった。ワンフレーズだけではあるけどギターはうまいっぽいし、声と見た目の相性もいいし。美宇からのフィードバックも似たような感じだった。ただ美宇は自身もVtuberとして活動しているので、よりアドバイスが具体的だった。さすが。
問題はハクトである。
「あ、動画、三本ほど作ってあるのでどれがいいかご意見お聞きしたいです」
「マジ?! 俺先攻でよかったわ。なんだ、自信なさそうなわりにシゴデキじゃん」
先攻後攻は別にないのだけど、みっくんの発言はその場の総意だった。配信未経験ではあるけれど、ツブヤイターの画像を見るに画像編集のセンスはあるし、動画を作るのにも問題はなさそう。私やみっくんもデジタルネイティブ世代ではあるけど、さらにその手の技術が身近な年代ということだろうか。私は中学生までガラケーを使っていたけど、大輝くんは最初からスマホなんじゃなかろうか。
それではハクトの動画一本め
「virtuala一期生、ユニット『感情交差点』あお色担当、蒼川ハクトなのです♪ ハクトは〜」
待って。
つい脳内に溢れ出る女オタク構文。でも待って。待ってほしい。
……え? 誰だコイツ。ってまあ画面に映る超絶かわいいケモミミショタには合ってはいるんだけど、大輝くんと結びつかない。唖然としている間に終わる。それがショートの短い尺。国民的アニメの物真似はわりと似てた。
「……却下。殴りたくなるから。次いこ次」
みっくんの言い分はあんまりだが気持ちはわかる。
「virtuala壱期生、旅は道連れ世は情け、情の行き交う浮世……」
また声が違う。さっきがあざと可愛い系ならこっちはやや吐息厨のアニメ系イケボ。ガワにはさっきの方があってるな。
「却下。ぜってーネタ切れおこすって。次」
みっくんは相変わらずバッサリだが、言われた当人はケロリとしている。けっこう凝った動画だったし、作るのに時間もかかっただろうにイラッとしないのだろうか。
「virtuala一期生、ユニット『感情交差点』所属の蒼川ハクトです。よろしくお願いします! あ、挨拶は時間関係なく『おはようございます』でお願いします。配信の始まりは一日の始まりだと思って気を引き締めていきたいので。あと芸能人みたいでちょっとカッコイイでしょ?」
今度はハキハキしたショタボ系統。地声より高いけど最初よりやりすぎ感はないし、謎の厨二病イケボより見た目に似合っている。
「これでは?」
とみっくんも言ってるし、美宇も頷いている。
「それにしても……」
みっくんが真剣な顔をしている。
「……アレか。顔や声は全て仮の姿で、地声を晒さない理由は家に伝わる盗術の一つとか」
「いや僕は大泥棒の三代目じゃないですよ。その漫画ちゃんと読んだことなくて」
「俺も」
「え」
発想が斜め上だったけど、別にそんなにキャラ作らなくてもいいのに、とは私も思った。
「その声で配信するんじゃだめなの?」
「……見た目に合ってないし。あと地声で喋り続けるのは逆に喉に負担が」
「あ〜。そのあたりの理論はわからん。俺ボイトレとか受けたことないもん。独学だから」
独学で逆弾きであのギターの腕前か。すごいな。
「あ、あの、本人がやりたい声で配信すればいいと思うけど、大輝くんとしては、強みは声真似とか多声類とかそっちって認識なんですか?」
割って入ってしまった。でも気になるんだもん。
「はい。あと年下ですし敬語やめて呼び捨てでお願いします」
「いやそれもそうだけど歌!」
本人と美宇が被った。
「え〜っと。大輝……は歌にはそんなに自信がない……けど、代表はめちゃくちゃ歌唱力を買ってると言う認識でよろしい?」
「そういうことみたいね」
鼻息荒めで美宇が返してくる。その気迫で大輝が縮こまっててちょっと可哀想。
「これを聞きなさいよ」
あ、本人の許可とらず勝手に……っと言う間もなく、美宇が一つの動画を再生した。
「何かアピールしたい特技などあれば」
美宇と知らない中年男性の声がする。スカウトした上で行ったとかいうオーディションの時の動画だろう。単純に距離が遠いのか、大輝の声はあまり聞こえない。何回かやりとりが続いた後で、歌声が聞こえてきた。動画だと許諾的にアップロードしづらい有名なミュージカルアニメの曲だ。
「……二度と歌に自信がないとかほざくなよ。喉笛噛みちぎって食べるぞコラ」
神絵師の腕食べたい、は歌でいうと喉笛噛みちぎるに変換されるらしい。みっくんの発言はだいぶ物騒だけれども、似たような感想は持った。いや声真似のクオリティもわりかし高いけど、その自信のなさはいったいなんなんだ、と。
とにかくクセの強い二人ではあるけれど、美宇が選んだだけあって才能ある人たちみたいだ。ちなみに喉笛発言をしたみっくんのオーディションの動画も見せてもらったが、彼は彼でしっかり歌がうまかった。弾き語りが得意らしい。二人で得意分野も声質も違うので、活動していく中でどう言う化学反応が起きるかも楽しみである。
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