第4話 ありがとう、日常
天国というのは何もないんだなと思った。
誰かに手引きされたように僕は一歩ずつ階段を登った。
階段を登っていると先の方にも同じく階段を登る女の子がいた。
どこの誰かもわからなかったが、この子も亡くなったのだと思った。
すると、突然、女の子が振り返り、僕の方に走ってきて、
「あんたは死んじゃだめ。とことん幸せになって、いっぱいいっぱい土産話をもってこないとだめなの。」
そう言って、僕を階段から突き落とした。
気が付いた時、僕は見慣れた病室にいた。
どうやら、さっきまでの景色は現実ではなく夢もしくは幻想だったのかもしれない。
ただ、最後に見た女の子を僕は知ってるような気がした。
数分後、看護師さんが定期巡回にやってきて、僕の目が開いていることに気がつくとすぐさま担当医を呼んだ。
医者によると9月28日に心臓移植の手術を行ったらしい。
幸運にもドナーが見つかり、危ない状態だったが手術をし、成功した。もう少しで手遅れになっていたと聞いた。
手術後、僕の容態はとても危険な状態で2週間ほど昏睡状態だったらしい。
意識が戻った後、両親はとてもよろこんでいた。
久しぶりに母の満面の笑みを見ることができた。
数ヶ月、リハビリをして自分で歩けるようにまでなった。
何カ月もずっと何もできなかった反動からか、元気だったころに戻ったように何でもできることに自然と涙がこぼれた。
長い闘病生活の末、僕は叶わないと思っていた中学校に復帰することができた。
僕はいの一番に幼馴染に会いたかった。
だが、中学校に彼女の姿はなかった。
先生に幼馴染のことを聞くと一瞬面食らったような顔をした後に、だいぶ前に転校したことを聞いた。
母は幼馴染のお母さんと仲が良かったため、何か知ってるのではないのかと思い、聞いてみたが、引っ越したということしか知らないと言っていたため、寂しい気持ちを残しつつ、また会える日を楽しみにしようという形で割り切った。
それからの人生は順調に過ごせて、とうとう社会人になる年まで生きてこられた。
そんなある日、実家をリフォームするついでに各部屋の大掃除をしようということになった。
自分の部屋の掃除が終わり、母の部屋の掃除を手伝っていると、母の部屋のタンスの奥のほうに年季の入った一つの切り取った新聞を見つけた。
そこには、僕の初恋であり、探し続けていた幼馴染の名前とともに自殺という文字が記されていた。
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