3ー20【皇女のプライド7】



◇皇女のプライド7◇セリス視点


 【エンパイアスペース】の自室に戻った私は、真っ先に自室のベッドに飛び跳ねた。ボフン――とダイブし、火照った身体と高揚する気持ちを落ち着かせる為に。


「……」


 よくよく考えたら、ミオに対して途轍もなくハレンチな事をしていた気がする。

 全裸にエプロンだけ。何度も恥部を見られて(見せて)、それでも実行した作戦……だから、せめて成功としておきたい所だけど。


「はぁ……私、本当に移り気よね」


 前世の時は、こんなに心変わりをする気質じゃなかったはずなのに。

 どちらかと言えば一途。そんな自覚まであったのに。

 それなのに私は、ミオに惹かれている。


「ユキ……貴方は、まだ眠っているかしら……」


 私が好きだった、自由な少年。

 無邪気な子供のようで、しかし残酷な行動を取る男の子。

 彼は日本に行きたいと、長年の夢だと公言していた。しかしそれは叶わない、不可能だからだ。


「……」


 でも、今のミオなら。

 詳しく聞いて、思った。

 女王シャーロットとの戦いで、ミオはこことは違う異世界へ、彼女を送ったと言っていた。もしかしたら、その力でユキナリを……と。


「帝都にはユキナリと、お母様であるミリティが療養をしている……」


 ミオが確認してくれたから、二人の安否は判明している。

 帝都にはまだ仲間が数名残っている。だからユキナリの心配は無用。

 勿論、二人の救出を優先したいという理由もある。


 けれどやはり。


「ユキナリよりも最優先される事、私は……父上を――殺す」


 天井を眺めながら、私は歯噛んだ。

 食いしばり、ギリッと歯が軋む。


「このままでは、帝国はミオに滅ぼされるわ。それだけは避けないと……」


 そう、最大の目的はそこだ。

 ミオを敵にしてはいけない……それが分からない父上には、何を説明しても無駄なのだ。あれだけミオに会いたいと、散々言ってきたツケに、今苦労している。


 父上は、ミオの凄さ……恐ろしさを知らない。

 私の報告を何度も聞いているのにも関わらず、一切信用してくれていなかった訳だ。


「でなければ、滅びる運命しかない」


 父上はどうして侵攻を選んだのか。

 帝国の指針は、どこまで行っても反撃に重きを置く。

 やられたらやり返す、それが基本なのだ……長年つちかってきた、帝国の宝なんだもの。


 それを、父上はくつがえした。

 そしてその矛先は、私たち【アルテア】に向けられている。

 許容してはならない。これだけは、譲ってはいけないから。


 私は起き上がり、胸を触る。

 【オリジン・オーブ】が体内に融け、強くなったと思い込んでいた。

 風の力と、ミオから授かった【ケツァルコアトル】……


「私は、弱い」


 【オリジン・オーブ】の所持者で、おそらく私が一番弱い。

 一番は、言わずもがなアイシアだろうけど……次点でリアちゃんかしらね。

 彼女には、なるべく戦いには参加させないと、ミオも言っているけれど、やはり【竜人ドラグニア】。最強の種族というだけあって、素で戦えば誰よりも強い。


 ミーティアだって、一番オーブの力を引き出すのが上手いと思うし、白の【オリジン・オーブ】を媒介にして誕生した精霊、フレイウィ・キュアもそう、圧倒的に特別。

 そして行方知れずの、元女王シャーロット。


 やはり……私が最も、【オリジン・オーブ】を使いこなせていないわね。

 考えれば考えるだけ、そのまま深淵に落ちていってしまいそうになる。


 このままでは駄目だ。

 私は、帝国を導く存在にならなければ……私のプライドに賭けて、この命を賭けて。

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