3ー18【皇女のプライド5】



◇皇女のプライド5◇ミオ視点


 セリスが帰った、ケツ丸出しで。

 最後までからかうように、俺にチラリと見せつけて行ったよ。


「大変だな、皇女ってのも……」


 椅子に座り直して、俺はセリスが置いていった弁当を見詰める。

 バスケット……なんだろうか。持ってきた時から思っていたが、なんというか……ドス黒いオーラが出てたんだよなぁ。

 セリスがいる時に開けろって言われなくてよかった、マジで。


「えっと……」


 バスケットの蓋をそろりと開ける。


「――うっ!」


 鼻を攻撃された。

 激臭だ、それもなんだか……嗅いだ事がないような臭いだ。

 刺激臭は、鼻の奥を刺してくる。ずっと残る、しかも嗅ぐ度に更新される。


「何をどうしたら、こんな硫黄のような臭いを出す食い物が……」


 硫黄臭と言う事は、卵だろうか。

 いやいや……自慢じゃないが、【アルテア】での鶏卵はかなり高品質だぞ。

 ましてや皇女が取り扱う物は、採れてたの卵のはずだ。


「なんでこんな事になるんだよ」


 もう一度、蓋を開ける。

 うっ!となりそうな臭いに眉間を寄せ、確認する。


「サンドイッチか……?」


 鼻を抓んで、俺は中身を取り出す。

 割ったパンに野菜とゆで卵を挟んだもの……臭いはこの卵じゃなさそうだけど。

 シンプルなのに、なぜこんな臭いが?


「こっちかぁ」


 サンドイッチは二種類あった。

 一際臭いを放つ、鼻を殺した犯人の正体だ。


「ベーコンだな……別に激臭を放つ素材じゃないのに何故。タマゴも使ってるけど、火を通したわけでもなさそうだし……」


 見る度に不安に駆られる。

 臭いにも慣れず、鼻を抓んだままサンドイッチを手に持つ。

 少しギュッと力を込めると……パンの隙間から――ドロリ。


「これかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」


 鍋の底で何日も残っていた物を、更に煮詰めたようなソース。

 これ赤?紫に近い気がするんだが……なにを素材にしたんだろう。


「もう固形じゃねぇか、なんか……嫌な粘り気だなぁ」


 これ白じゃなくてよかった、なんて個人的に思ってしまったぞ。

 ねぇこれ食うの?食わなきゃだめ?絶対?

 別にバレない気もするけど……味を聞かれたら死ぬしな。


「えぇい……!こうなりゃ自棄だ!!」


 鼻は抓んだまま、ベーコンサンドに噛み付く。

 がぶりと、硬めのパンを食い千切った。ソースがネバネバで、喉に絡みつくぅ。

 ベーコンはカリカリと通り越してガリガリに焦げていた。その焦げが、更にソースの臭いを悪化させているんだ。


「うぅ……っ!」


 卵の腐ったような硫黄臭。

 それと、このソースはタマネギだろうか。

 何故に真紫になったのかは不明だが、いや臭ぇぇぇぇ!


「んぐっ――ぷはっ!」


 ようやく一口飲み込んだ。無理矢理落としてやった。

 俺は、能力の後遺症で流せなくなった涙が、無性に恋しくなった。

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