3ー13【かの姫は思う5】



◇かの姫は思う5◇ミオ視点


 どれくらい時間が経ったか、俺とセリスの見つめ合い……いや、睨み合いは。

 まるで折れたら結婚しなければならない気がして、俺は絶対に視線を外す事をしなかったが……しかし、痺れを切らしたのはセリスの方だった。


「あーあ、こんな事してたら……冷めちゃうわ」


「な、なにが?」


 セリスは部屋の入口まで戻る。

 いや、コートを羽織ってても屈んだら尻が……見えてるって!


「はいこれ」


 デスクの上に置く何か。

 バスケットだ。丁寧に編み込まれた、帝国産の。

 これは……弁当?


「もしかして、俺に?」


「……」


 ここでようやく、セリスは顔を赤くした。

 いやそこ?裸体を見られたとか、大事な所が全開とかじゃなくて?

 そしてよく見れば、セリスの手には包帯やガーゼが巻かれていた(絆創膏はこの世界にはない)。


「これまさか、手作りか?」


「そ、そうよ。朝から時間を掛けたんだけど……中々上手く行かなくって、時間が掛かっちゃたわ、えへっ」


 肩をすくめ眉根を寄せ、舌を出して笑う。

 俺は思うんだ。このセリスのリアクションこそが、彼女の本質なのではと。


「……」


「あ、ちょっと待って!開けないで、私が行ってから食べてね!」


 バスケットを開けようとした俺の手を押さえるセリス。

 触れた手が熱い、そして包帯が痛々しい。

 治せよ……痛いだろ?せっかく治療が出来るようになってるんだからさ。


 ここまでするのも、帝国の為なんだろ?

 身体を差し出すような真似までして、怪我もして。

 自分の心に嘘をついて、こんな行動を……ハッキリとさせないと、このままズルズル行っちまう、よな。


「なぁセリス……俺は、多分お前の願いに答えられない」


 重なる手に更に重ねて、俺はセリスを見る。

 しかしセリスはこちらを見ない。うつむき、髪で隠れた視線はどんなものか分からない。けれど、多分俺の言葉を聞く気はないんだろう。


「――言わないで」


「セリス」


「本当に、悪いとは思ってるのよ……ミオにも、ミーティアにも、他の皆にも、帝国の民たちにも」


 デスクにぽたりと、雫がこぼれた。

 涙だ……やっぱり、そうだよな。


「なら、もっと正攻法があっただろ?」


「――違うのよ、ミオ。私は……ただ単に勝ちたいんじゃない。決めたの、もう決めたのよ」


「……何を?」


 真剣な表情で、彼女は宣言する。


「私は、父上を倒して……国を取る」


 それは、反逆宣言だ。

 この状況では、内乱と言うべきか。

 しかし、セリスの考えている事を……俺は否定しない。

 それが最善だと、未来の為に出来る最大級の譲歩だと、分かるから。


「……そこまでの覚悟があるんだな」


 その為の婚約発表か。

 そうか……だから、帝国の人たちは知っていたんだ。

 姫が結婚を宣言した時、それは国を治める覚悟を決めた時だと。


 父親、皇帝バルザック・セル・オラシオン・サディオーラス陛下を排し、自分が【サディオーラス帝国】を治め、支配するのだと。

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