3ー9【かの姫は思う1】



◇かの姫は思う1◇ライネ視点


 【アセンシオンタワー】にある、帝国の中枢メンバーが駐在する階層。

 それが、十一階から二十階層にあたる【エンパイアスペース】と呼ばれる場所です。

 かくいう私、ライネ・ゾルタールも、この【エンパイアスペース】の階層に住まいがある訳ですが……現在、私はとても心が痛い思いをしています。


 理由は、この【アルテア】に住まう人たち……特に女王国と公国の人たちは存じている事でしょう。

 公国皇女……セリスフィア・オル・ポルキオン・サディオーラス殿下、その宣言によって。


 先に述べた、女王国と公国。

 三国のはずの【アルテア】に、帝国が含まれていない理由が、これだ。

 その発言は、帝国の民にとって朗報だった。殿下のご婚約……ミオ・スクルーズとの。


 三つの国が集まるこの【アルテア】で、現在この帝国領だけが浮かれている。

 自国の姫が婚約、それも【アルテア】の指導者と。それは喜ばしい事であり、国にとっても非常に有益なものだ。

 問題は、それが独断だったという事……つまり、セリス殿下の暴走だった。


「……」


 私はゲッソリとしているだろう。

 この数日、帝国領【イズアーレ】はその話題で持ちきりだ。

 どこかで話題が花を咲かせれば、その度に私……【帝国反抗組織アニマ】の副リーダーに就任した私に、報告が舞い込んでくるのだから。


「おーいライネ、いい加減起きろって」


「起きてますよ……」


 デスク仕事の最中、私は机に突っ伏して休憩をしていた。

 それを、隣のゼクス・ファルゼラシィは寝ていると思ったらしい。


「なら仕事しろー」


「代わって下さいよ、ゼクス」


「嫌だよ、自分でやれー」


「そうじゃないです。副リーダーです」


「余計に嫌だね」


 ゼクスは悪い笑顔を浮かべて、私の申し出を断る。

 副リーダーになってから、私は先輩たちを呼び捨てにするようになった。

 正確には、セリス殿下に言われたからだけど。


「せめてユキナリのボケナスがいてくれたら……」


「あいつの無事は確認できてる。それだけで充分だろ?」


 今はいないあの馬鹿先輩。

 帝都に残っている彼は、未だに意識が不明だ。

 でも無事……ゼクスが言うように、彼の無事は確認済みだ。

 わざわざミオくんが確認してきてくれたのだから、一番信用できる。


「そうですけど、私……心労で死んじゃいますよ」


「あっはっはっは、はぁ……俺もだよ」


 ゼクスは笑っていたが、途中からため息を吐いた。

 私共々、大変なのよね……殿下の思惑も、【アルテア】の人たちの思いも知っているからこそ、下手に行動できない。


「それで、殿下はどこですか?連絡しても無視されるんですけど」


「なんで無視されるんだよ。ロイドさんと殿下が一緒なのは分かってるんだけど?どこへ行ったかは知らん、俺も無視されてる」


「同じじゃないですかっ」


 ロイド・セプティネ。【帝国反抗組織アニマ】のリーダーであり、帝国最強の魔人。だけど実は、【アルテア】に来てからの活躍がない少し残念な人。

 まぁ……あの人が一緒なら、大丈夫だろうけど。

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