2ー57【悪女な魔女5】



◇悪女な魔女5◇レフィル視点


 痛みのフラッシュバック……あの時の痛みは、身体に刻まれている。

 痛覚が無くなった今でさえ、思い出そうとすると身震いしてしまう。

 それ程の痛みだった。それを、フラッシュバックで思い出す……ああ、怖いわね、確かに。


 でも、アタシはもう決めた。

 彼の思惑に乗る。そうして今残った命を、アタシがしでかしてしまった事へのつぐないに当てるわ。

 どれ程残されているかも分からないけれど、できる限り、散り行くまで。


「それじゃあ、準備をしようか」


「――おい坊主、何をするか分からんがなぁ、話を聞く限り儂も勉強が出来そうだ……見せてもらうぞ」


「別にいいっすけど……多分、勉強にはならないと思いますよ?一瞬なんで」


 老爺ろうや……モレノ・バラバ先生の言葉に、ミオは苦笑した。

 能力ですものね、でも痛みは来る。想像を絶する、あの痛みが。


 ギュッと拳を握る……つもりだったけど。

 全然力が入らない。アタシ、こんなに非力だったかしら。

 さっき彼に抱き支えらた時も軽々と扱われていたし、この数年の自分の身体の変化を、理解できていないのね。


「平気か?」


「……ええ、平気よ。問題ないわ」


 彼が今日、この場に来てくれた事こそ、アタシの転機。

 アタシの異世界での役割じんせいなんて、もう終わっているのだから。

 だからこれからは、アタシは魔女として……この世界を掻き乱そう。


 彼は手を差し出す。

 アタシはそっとその手を取り、なんとか立ち上がった。


 バンッ――!


「――何をしている!!ミオ・スクルーズゥゥ……!!」


 怒号だった。物凄い剣幕で、優しかった面影など皆無のアレックスだった。

 そんなアレックスを見て、ミオ・スクルーズは面倒くさそうにため息を吐くと。


「はぁ……確かに、手を出さないって言ったのは俺だよな。これは俺も悪いわ……でもな、一方的に俺が悪いと決めつけて、デカい声で叫び散らかすのはどうかと思うぜ?いい大人がさぁ」


 手を出さない。きっとそれはアタシの事なんだろう。

 この診療所に入ってきてから、彼はアタシを見てもスルーしようとしていたし。

 ただ、アタシが口を滑らせたり、モレノ先生との会話から、少しずつ近くなってしまった結果……こうなった。


「なんだと!?言うに事欠いて……僕になすりつけるのか!!」


 アレックスは少し赤面した。自覚はあったようだ、大人としての。

 でも、彼への執着が、それすらも抑えられないんだろう……


「あーはいはい、俺が悪かったよ。だけど、悪いがお前に口出しはさせねぇ……」


「――なっ……んだ、と」


 ミオ・スクルーズが手を翳す。

 たったそれだけで、変形した床がアレックスを拘束した。

 確か彼の能力――【無限むげん】……だったかしら。


「黙って見てろよ、俺が何をするのか。それすらも出来ないんなら、一発殴って沈める」


「ふんっ!出来るものな――」


 ドンッ――!!


 アレックスの糸が切れた。

 無言のまま腹部を殴られて、拘束されて倒れる事も出来ないままに。

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