2ー58【悪女な魔女6】



◇悪女な魔女6◇レフィル視点


 突然診察室に入ってきたアレックスを、ミオ・スクルーズが一撃で気絶させた。

 それを見ていた先生が呆れたように。


「患者を増やすなバカタレが」


「あ。さーせん、マジで」


 モレノ先生が彼の脇腹を小突いた。指で、魚が餌を突くように。

 そのあと先生は、ぐったりするアレックスを観察すると。


「こりゃあ上手い具合に意思だけ刈り取ったな……見事だ」


「あら、ほんとーねぇ。無傷だわ」


 老夫婦がミオ・スクルーズの手際を感心していた。


 アタシは後ろからだったから、殴った瞬間の箇所は見えなかったけど。

 でも、結構な音がしたはずなのに。身体に外傷がない……あ。

 気付いてしまった、カラクリに。


「ねぇ……もしかして、キミが?」


「うん、でも内緒だよ?」


 アタシの傍にいた白い子が、手に魔力光を輝かせていたのだ。

 ミオが殴った瞬間に、癒やしの力を使ったのね……でも回復魔法だなんて、存在したのね、この世界にも。


「さ、さてと。それじゃあレフィル・ブリストラーダ……あーレフィルでいいよな?俺もミオでいいからさ」


「ええ、構わない……わっ!?」


 急に馴れ馴れしいなと内心思いながらも、返事をしたアタシの所へ来て、彼……ミオはアタシを抱え上げた。


「爺さん先生、そこの診察台を借りるよ」


「勝手にしろ。あと爺さんと呼ぶな」


 ミオは笑いながら「さーせん」と、まるで少年のように悪びれない。

 アタシを抱え、診察台に寝かせると言う。


「これから、ちょっとだけ拘束するぞ。もしフラッシュバックで痛みが出たら、暴れるかも知んないし」


「……善処するけど」


 もしかして、アレックスみたいに強引に。

 と思った矢先、ミオは右手から光を発生させ輪を作った。

 光輪、優しい光を放つ、天使の輪っかのようなものだった。


「【極光天輪きょっこうてんりん】っていう、拘束の為の技だ。安心してくれ、物理的な障害はないから、ただ動けなくなるだけさ」


 その輪っかを三つ程生成すると、診察台に寝ているアタシの身体に合わせて大きさを変え、そして胴、腰、脚部と三箇所を封じた。


「っ!」


 自分が王国の民に対して、非道な実験をしていた時のことを……思い出した。

 そうよね、まさにこれがフラッシュバック。

 自分の行って来た悪行が、これ程までに非人道的だったことを、思い知ったわ。

 だからこそ、アタシは受けなければ……これこそが罰、これこそがアタシが世界に対して行える、謝罪の一歩。


「怖いか?」


 感情の機微を容易に察したミオは、アタシを見下ろして笑いながら言う。

 まるで実験前の自分を見ている気分だわ……でも。


「ええ、怖い。でも……受け入れるわ」


「……へぇ」


 心底おどろいたような、そんな顔でアタシを見る。

 アタシだって、他人にそんな顔をされたのは初めてだわ。

 だけど、これがアタシの覚悟だから。アタシは、残された人生を……こうしてつぐなっていく。


 今日ここで、ミオと再会できた事柄をきっかけに……アタシは、魔女として生きていくのだから。

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