2ー56【悪女な魔女4】



◇悪女な魔女4◇レフィル視点


 彼に悪意はない。

 アタシを利用するというその発言すら、未来を見た一言。

 きっとそうなんだろう、彼が見る果てない未来の景色を、実現させる為の言葉。


「アタシは、償いがしたい。でも、どうしたらいいか分からない……だから、貴方が言うように、利用されてもいいと……思っているわ」


 そう思えたのは、彼が現れたから。

 そうでなければ、きっと命が尽きるのをただ待つだけだった。


「利用される。その意味を、知ってもか?」


 ミオ・スクルーズは真剣な瞳をアタシに向けた。

 真っ直ぐ、言葉をぶつけるように。


 だから逸らしては駄目。

 決して、アタシがして来た悪行の全てが許される事じゃない。

 償いがしたいなんて言葉も、軽く言っている訳ではない。

 彼の言葉に、未来に、見えるものがあるのなら。


 アタシは魔女にだってなれる。


「ええ」


「そうか……その覚悟、受け取ったよ」


 椅子に座るアタシに目線を合わせるミオ・スクルーズ。

 そっと手を伸ばし、アタシのヴェールを捲る。


 ビクッ――


「大丈夫だ。今の俺なら……触れられる」


 本を正せば、彼に敗れて受けた傷。

 王国を蛮行の国とし、多くの国民を実験台にして命をもてあそび、崩壊へと導いた悪の根本。

 もしかしたら未来で、何もしなくても魔女扱いされていたかも分からない、そんな最低最悪の女、悪女。


 国を崩壊させた悪女、魔女……その正体は、国で持てはやされた聖女。

 歴史に載るなら、そんな感じかしらね。


「フレイ、もしかしたら傷を治したらフラッシュバックするかも知れん。なにせ頭部……脳だからな」


「だね。準備はしておくよ」


「……」


 ねぇ、直前でそれ言うのは無しでしょう?

 それを言われて受けるのは、相当なお馬鹿なのではないかしら?


「おっと、凄い顔だ。半分でも分かるな、はっはっは!!」


 それは褒めてないわよね?

 どんな顔をしたのか、きっと右半分だけでアピールしたのだろう。


「ミオ、消失している部分はどうするの?」


 それはそうね。

 あの黒い破片が刺さって、空間が歪んだように抉れた左半分。

 もう無くなってしまったものだと。この白い子が言うように、消失したんだと思っているけど。


「【破壊はかい】は、それ自体を壊すんじゃないんだ。この黒い傷は、粒子を結晶化したもの。そしてその特性は、対象の存在を曖昧にする……破壊する事だったんだ」


 それって、つまりこの顔の半分は、無くなった訳じゃ……ない?

 失ったと思っていた顔の半分、だけどそれは、みにくくも当然の報いだと受け入れた。


「そっか。だからフラッシュバックね……元々あった物が戻ってくるから、情報量が一気に押し寄せるんだね」


「おそらくな。痛みも来ると……思って、るんだ……けど。あれ、これ言わないほうがいいんじゃね?」


 顔を少しだけ青くして言うミオ・スクルーズ。


「だね。言わないままのほうが簡単だったよ、キュアも」


 白い子も呆れている。


「……なんで言ったのよ」


 やっぱり配慮が足りないのではと思った、この男。

 凄いけど抜けている……ああでも、そんな抜けてる余裕があるから、アタシなんかに手を差し伸べられるのかも、知れないわね。

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