2ー46【アーゼルの都・格差2】



◇アーゼルの都・格差2◇ミオ視点


 土煙が舞って、俺が叩きつけた【死葬兵ゲーデ】も動きを止めた。


「……なるほどな。前の【死葬兵ゲーデ】とは違って意思があるとは思ってたが、前みたいに姿を元に戻せない訳じゃないんだな」


 言葉通り、化け物の姿は元の人間に戻ったようで、白目を剥いて泡を吹く男が、全裸で地面にクレーターを作っていた。

 あいや、クレーターを作ったのは俺だわ。


「フレイ、そっちは……って、もう終わってるみたいだな」


「とーぜんだよ。二人の治療は完璧。たいしたダメージでも無かった……特にこっちの男はね」


 指を指してアレックス・ライグザールの現状を報告する。

 おいおい……それってつまり。


「おいアレックス・ライグザール……お前、起きてんだろ」


「え!?だ、団長……?」


 こいつ、狸寝入りしてやがったんだ。

 一時的に気を失ったのは確かだろうけど、その後目を覚まして……そのままだ。


「……俺を見て、死んだふりがいいと思ったのか?それとも、自分が情けない男だって言うのを、部下に見られたくなかったのか?」


 俺の言葉に、寝たままのアレックス・ライグザールがピクリと。

 そしてゆっくりと起き上がり。

 憎悪の対象を見るかのような瞳で、俺を見てきた。


 そして口を開く。


「……どうして君がここにいるんだ。聖女を追ってきたのか、それとも僕を……僕を笑いに来たのか!!ミオ・スクルーズーーーー!!」


 大声でつばを飛ばし、荒々しい顔で叫ぶ。

 もう見境ないな。

 しかも俺の質問に対する返答じゃないし。


「それが返答でいいんだな?」


 俺は半ば呆れている。

 相手にする気も失せてしまうくらい、正直ガッカリだった。


「な、何を!お、おい!待て!!」


 俺はアレックス・ライグザールを半分以上無視して、小屋に向かおうとした。

 その道を、部下であろう騎士、いや……元・騎士でろう男が塞ごうとする。

 何を勘違いしているのか、俺はそもそも、医者に話をしようとしているだけだ。


「俺に敵意が無いこと、あんたは気付いてるんだろ?だったら退いてくれ、俺は医者を探しているだけだ。例えあんたの上司が俺を倒せと言っても、無理なことも理解出来んだろ?あの【死葬兵ゲーデ】を倒した瞬間を、見てんだから」


「……くっ」


 男はアレックス・ライグザールを何度も見る。

 きっと命令を待っているんだ。されど、その命令を出した瞬間、俺はあんたたちを敵と見なすぞ。


 アレックス・ライグザールは視線を逸した。

 男は「そんな……」と、顔色を変える。

 そりゃそうだろうな。本当なら、命に変えても守れと……言って欲しい所だ。


「言っておくが、俺は別に聖女を追っかけて来た訳じゃないぞ。あの時の戦いで、俺はもう決着をつけてある……あんたは違うみたいだけどな」


「君がそれを言うのか!!僕たちの……僕の人生をめちゃくちゃにしたくせに!!」


「だ、団長……」


 それは逆恨みって言うんだよ。

 部下も絶望してんじゃねぇか……いいのかよそれで。

 ああでも、そうか。

 この結末も、どうせ俺のせいにするんだろうな、この男は。


 あー……どうすっかな。

 俺の目的でもあるこのアレックスとか言う男、報告しにくいって。

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