2ー45【アーゼルの都・格差1】



◇アーゼルの都・格差1◇ミオ視点


「――あの〜、そいつを離してやってくんないかな?」


 驚愕きょうがくを背中で表す【死葬兵ゲーデ】。

 顔を傾け、俺の姿を認識した瞬間、アレックス・ライグザールを地面に落として殴りかかってきた。


 ドンッ……!!


「――!!ナニッ!?」


 この【死葬兵ゲーデ】、顔は羊……いや山羊か?

 体毛とうろこ、それに筋力もそこそこ、だから防げない訳じゃないんだよ、アレックス・ライグザール。


「カタウデデ、フセグトハ!ヌゥ……!!」


 その言葉通り、俺は【死葬兵ゲーデ】の攻撃を片手で防いだ。


「驚く事じゃないさ。お前がどんな精霊と一体化してるかは分からないが……避けるまでもない攻撃に、わざわざ運動量を増やす必要は……ない!」


 押し返す。

 それだけで【死葬兵ゲーデ】はたじろぎ、後ろへズンズンと後退していく。


「フレイ」


 周囲の【微精霊フォトン】が集結し、形を作る。


「分かってる。あの二人の治療だね」


 白い精霊は、倒れているアレックス・ライグザールのもとまでテトテトと歩み寄ると、ボロいコートをむんずと掴んで引きずって行く。

 吹き飛ばされた女の子と一緒に治療をしてくれるんだろう。

 それにしても、アレックス・ライグザールの扱いよ……


「ミオの態度と同じだよ〜」


 そう言いながら歩いていくフレイ。

 そうですか、契約者である俺の心象が影響されんのね。


「……キサマガ、アノカタノ、ショウガイカ……!」


 【死葬兵ゲーデ】の言う黒幕が誰か。

 【奇跡きせき】を掛けられているのなら聖女なんだろうと、そう考えたが、かくいうアレックス・ライグザールが敵対しているからな。


 ならば、女王国から脱し……【奇跡きせき】の兵士たちを連れ姿を消したあいつが、黒幕なんだろうさ。

 【死葬兵ゲーデ】が精霊と一体化……【精霊心通ユニゾン】している理由もそれで通るからな。


「――お前の御主人様は、アリベルディ・ライグザールか。それとも、ダンドルフ・クロスヴァーデンか?」


「!!」


 俺を障害・・と決めつけた言葉、たったの一撃を防いだだけだが、実力差は分かったんだろう。なら決まりだ。


「そのリアクションで理解した。なんで息子を連れ去ろうとしてんのかは知ったこっちゃないが、その男は俺のクエスト目的でもあるんでね……させねぇよ」


 小屋の近くから「だ、誰なんだお前!?」と男の声。

 「うるさいなぁ。黙って。集中できないじゃん、仲間を治せなくてもいいの?」とフレイの気怠そうな声で圧を掛けていた。うん、それでいいか。


「ムゥ。ナラバ……!」


「……」


 グジュル……と、巨体から何かが這い出た。

 背中から二本、幹のような何か……そして更に、そこから半透明の膜……これは翼だな。


「コレナラ、ドウダ!アノカタノ、ショウガイ、コノオレガ、ココデ!!」


 飛び上がり胸を膨らませ、俺を見下ろす【死葬兵ゲーデ】。

 動きは速くない。あの胸が膨らむ仕草は……ブレスだな。

 流石にここら辺一帯は吹き飛ぶ恐れがあるな、地上に撃たせる訳にはいかない。


 俺は【転移てんい】で【死葬兵ゲーデ】の真下に移動する。


「ナニ!……キサマ!!ブワァ!」


「――らぁ!!」


 吐き出そうとした【死葬兵ゲーデ】の顎下を、【極光きょっこう】の光を纏わせた右拳でアッパー。

 更に反転させ、左足で【死葬兵ゲーデ】の腹部に踵をめり込ませた。


 ズドム。


「ブハァァァァァァ!」


 上空に吐き出されるブレス。

 真っ黒な炎、暗黒とでも言えそうなブレスは、地上に撃たせなくて正解だった。


「ぐえ……くっせ!」


 鼻が曲がりそうな臭いに眉間を寄せながら、俺は【死葬兵ゲーデ】の胸ぐら……素肌だから胸ぐらなのかはよく分からんが。

 とにかく掴んで、そのまま落下する。


「お……らぁぁぁぁぁあっ!」


 ズドォォォ……ン。


「うわぁ……結構威力込めたね、ミオ」


 衝撃も、俺の魔力も小屋の中に伝わっただろう。

 さてこの状況、どう出る……聖女レフィル・ブリストラーダ。

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