2ー44【アーゼルの都・黒邪】



◇アーゼルの都・黒邪◇ミオ視点


 あれは本当に精霊なのか?

 どう見ても、あの姿は【死葬兵ゲーデ】だ。

 聖女レフィルに身体を弄くり回された、女王国の国民たち……それなのに、奴の身体から発せられるのは、精霊の気配だ。


『――ミオ、あれはキュアたちと同じ。【精霊心通ユニゾン】だよ』


 【精霊心通ユニゾン】とは、文字通り心を通わせる……精霊なら誰でも使える能力だ。契約者の心の中に入り込み、会話ができるんだ。


「なるほどな、だから精霊の気配が……【精霊心通ユニゾン】した人間に【奇跡きせき】を使用したって事か。じゃあ、あの【死葬兵ゲーデ】は聖女レフィルの部下……アレックス・ライグザールの仲間って事……」


 そう思おうとしたが。

 とうのアレックス・ライグザールがおかしな行動を起こす。

 誰かの名を呼び、その誰かと合流した。


 怯えるかのような行動に、困り顔。

 ボロボロの武器を構えて、【死葬兵ゲーデ】に向きあった。


「仲間じゃないのか?」


 戦闘を開始して数十秒、二人が吹き飛ばされた。

 ありゃりゃ……


『助けないの?』


「仮にも俺のライバル(恋の)だった男だぞ?【死葬兵ゲーデ】が仲間じゃないなら、自分でなんとかするだろ」


 まさか、ただのパンチ一発で終わりじゃないよな。

 騎士様なんだろ?立ち上がって見せ……


 多少の期待もあったが、それは水泡に帰す。


「マジかよ……あいつ、案外弱かったんだなぁ」


 更に追加で小屋から出てきた男がいた。アレックス・ライグザールは何故かその男に檄を飛ばし、自分が犠牲になろうとしたのか、それとも無意識にターゲットを逸らそうとしたのか……まぁ最悪だ。


『聖女を守れって言ったよ。あの【死葬兵ゲーデ】の目的だと思ったのかな?』


「かもな。でも最初の一撃で分かるはずだ……あいつのターゲットは、あの男自身だぞ」


 それなのに、あんな対応しちゃってさ。

 アレックス・ライグザール……あんな感じだったか?

 もっと頭を使って物事を見られるタイプだと思ってたんだが……あの頃は、俺がガキだったのだろうか。


 アレックス・ライグザールは掴まれて持ち上げられた、必死に抵抗するが、やり方が間違ってるって……それじゃあ通じない。無意味だ。

 騎士団長だったんだろ、ミーティアの元・婚約者だったんだろ?


 なんだよその情けない声、態度、実力も……からっきしじゃないか。


「……」


『ミオ。ミオの目的もあの人でしょ?なら助けないと、間に合わないよ?』


 分かってるさ。

 分かってはいるんだが……どうして、こんなにも腹が立つんだ。


 うめき声が聞こえる。

 情けなくも抵抗し、【死葬兵ゲーデ】の背に苛立ちが見えた。

 言葉を話す【死葬兵ゲーデ】は、意味ありげな言葉を何度か漏らした……俺だって聞き耳を立てて聞いていたさ。


 アレックス・ライグザールは気付いてなさそうだが、様々な者と繋がる言葉だと、察する事が出来る。


「……あーもうやめだ。馬鹿らしい!」


 うだうだ考えていたら、本当にアレックス・ライグザールを逃がしちまう。

 俺とあいつは、もう違う場所に立っているんだ。

 比較した時期もある、妬んだ事もある……でも、どこで違えたか、あいつはドロップアウトしたんだ、俺のライバルであるという、立場から。


「――【転移てんい】」


 シュン――と、移動する先は、【死葬兵ゲーデ】の真後ろ。

 掛ける言葉は……あーまぁいいか、なんでも。

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