2ー5【かつて聖女と呼ばれて5】
※お久しぶりの更新となってしまいました。ここからまたよろしくお願いいたします。
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◇かつて聖女と呼ばれて5◇三人称視点
【アーゼルの都】の町外れ。そこには木造の一軒家がポツンと存在した。
老夫婦が暮らす小屋のような家だが、簡素な治療道具が一式揃っていて、家主が医学に精通している事が見て取れた。
かつて、【リードンセルク女王国】……まだ王国と名乗っていた数年前、聖女と呼ばれた女性が連れられた、彼女の終着点。
古き都で、聖女と呼ばれた彼女は何を思うのか……そして、石ころのように転がる彼女の運命は、ここからどう転がるのか――それはまだ、彼女にすら分からない。
◇
「――随分と
老婆の旦那である
傷だらけで血塗れ、細かいガラスや石が刺さり、本来なら歩けるはずもない。
足の裏はぱっくりと開かれ、殺菌まみれで変色もしていた。
「構わないで……アタシは、これでいいの」
レフィルは黒のヴェールを押さえ、
しかし、
「痛みを感じないのなら都合がいい。麻酔も要らないな……どれ、縫ってしまおう」
「……要らないわ」
ぶっきらぼうの対応にぶっきらぼうで返す。
そんなやり取りを見た老婆は。
「要らない訳ないでしょ!いいからおじいさんの言う事聞きなさいっ!」
素っ気なく拒否するレフィルに、老婆は怒ったのだ。
しかしその怒鳴り方は心配によるもので、レフィルもそれに対して腹を立てる事は無かった。
だから無意識に従い、無言だが足を差し出す。
「……パメラ、裁縫道具を頼む。それから……麻酔もな」
要らないと言っておきながら要求する。
半分は冗談だったらしい。
そして、縫合は五分で済んだ。
痛みがなく感覚も鈍い。だから逆にやりやすかったのだ。
されるがままのレフィルも、出血が止まった事で少し表情が和らいだようにも見える。
それを見た老婆は……少し安心し。
「あら、やっぱり美人さんじゃないか!余計に残念ねぇ、火傷なのかい?その怪我は」
「おいパメラ。人様の傷に軽々触れるなと……昔から言っておるだろうに」
「……いいのよ、別に。これは罰だから……アタシがしてきた、
そう言って、レフィルは黒のヴェールを
顔の半分が黒い物体で
「ふむ……目と耳もか、鼻と口は平気なんだな?痛みは、やっぱり無いか?」
「ええ。無いわ……感覚もないし、触れられもしない」
「そのようだ」
魔力でもなく、物体でもない。
転生者の力によるダメージは、この世界の住人では解決できない事柄だ。
「なら、せめてもう少し工夫しましょうね。こうやって
老婆は、都の中心でのレフィルの動きを見ていた。
男にぶつかられた時も、
「これを見れば、皆……怯えて逃げるから」
そうして人を遠ざける。
きっと、傍にいた数人も同じだと。
しかし
「逃げたら医者じゃねぇがな」
「そうねぇ」
老婆もそう言って笑う。
この女性はあくまでも患者。あくまでも治さなければならない傷なのだ。
しかし、これは治療できないのも真実。
「……どうして、そこまでするの?アタシは……さっきも言ったように、
「あんなぁ、医者には関係ねぇんだよお嬢ちゃん。どんな犯罪者であれ、治療を受ける権利はある……儂らの仕事はそこだからな」
レフィルの話を信じたとしても、治療はするということだ。
無言になり、半顔を歪めて理解に苦しむレフィル。
そうこうしていると、奥から老婆がなにやら持ってきた。
「ほらおじいさん、これなんてどうです?これなら顔の半分を隠せるし外れないよわ。このヴェールと合わせれば、まるで教会のシスター様のようだわ?」
ただヴェールを被っていただけの状態とは違う。
それはいわゆる、シスターヴェールといわれる頭巾だった。
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