2ー4【かつて聖女と呼ばれて4】
◇かつて聖女と呼ばれて4◇レフィル視点
トボトボと一人、都の中を歩く。
活気の良い声に、人通りの多い露店市場。
いいえ、違う。違うんだわ。
これはアタシの心が
これが普通なの、普通の平和であり、当たり前の光景なんだ。
ドンッ!……ドサッ。
誰かにぶつかられて、アタシは倒れた。
それは、いかにも
アタシはよそ見をしていないし、この強い当たり方……いわゆる当たり屋、なのだろう。
「――おいおい、
やはりそうだ。
背中に体当たりをしておいてどこに目を……そんな事を言われても、アタシは背中に目がある訳ではない。目は一つしかないしね。
「おい女ぁ、話を!――ひっ……!!ひぃぃ!」
「……」
しかし相手、ぶつかった男はあたしを見てたじろぐ。
簡単な事。多分転んでズレたヴェールの下を見たのだろう。だから男は小さな悲鳴を上げ、不気味なものを見たかのように去っていく。
だったら始めから相手を選んでぶつかりなさいよ……まったく。
「――おやおや、大丈夫かい、お嬢ちゃん」
「……平気」
突然、あたしに手を差し伸べたのは、一人の老婆だった。
背の低い、優しそうな糸目のお婆さん。
アタシはその手を取らず、自分で立ち上がる。
身長的に、見上げればヴェールの下の
そうすれば、必然的に逃げ出すはず。
「……あらあら、怪我しているじゃないか……ほら、こっちへ来なさい?足に気をつけてね??」
「え……いや、アタシは」
何を思ったのか、その老婆はアタシの手を取り引っ張る。
このヴェールの下を、怪我かなんかだと思ったようだ。
でもまさか……怯えもせずに接してくるとは。
ズンズンと、勇ましい足取りでアタシを引っ張っていく老婆。
行く先はどこかしら。まさか自宅?……そんな訳無いわよね、きっと兵士の所だ。
善良なフリをして、あたしを売るつもりなんだわ。
でも、それでもいいのかも知れない。
アタシがしてきた事に比べれば、その方がまだ賢い。
バカな聖女の考えなんて、一般人の老婆の考えより浅はかで
「ほら、ここよ。ここが私たちの家なの」
「……詰め所じゃ無い?」
「何言ってるの!そんな事しないわよ、ほら入って。おじいさんが医者だったのよ、小さな町医者だけどね?」
医者に見せた所で、この怪我は治らないわよ。
どうせ怯えて怖がって、化け物を見る目で追い払うに決まっている。
それなら、あえて
「……構わないで、あたしは」
あの場所から出てきて、裸足だった事に。
そしてよく見れば、足は血だらけだった。ガラスの破片や鋭利な石が刺さったのだろう。真っ赤に濡れていた。
そうか、だからさっき足に気をつけろと……この老婆は言ったのか。
「ほら、怪我が増えてる……はいはい、入って!!」
「いや、だからアタシは……こんな顔でっ」
「何がこんなだい!そんな簡単な物で隠して、わざと見せるような真似をして!女の子なんだよ?……せめて隠すのがいい。いいえ、それよりも怪我よ、早く中へ!」
なんなんだろう。
この都で会った数名は、アタシを見るだけで避けた。
ぶつかってきた男ですら、行動を変更して逃げていったのに。
こんな小さな老婆が、アタシに怯えず……物怖じせずにこんな事を言ってくるなんて。
連れられるがままに、アタシは小屋……この老婆の家へ入った。
中は、本当に町医者といった感じ。
木造で狭い、診察室と待合室が繋がった簡素な部屋。
「さぁ。おじいさんを呼んできますからね、座っててね」
血濡れた足にタオルを巻かれて、あたしは木の椅子に座る。
こんなに暖かい部屋は久し振りな気がする。この空気も、人も。
(いや……違うわね。人も場所も、良くしてくれた人を蔑ろにしたのは……アタシ自身だ)
今更気付いた所で何が変わるのか。
アタシがしてきた行動全て、悪の所業だ。
それが
変えてはいけないんだろう……それだけは、それだけは否定してはいけない。
そうしなければ、アタシはまた繰り返すだけだから。
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