【聖女=魔女=悪女】編
2ー1【かつて聖女と呼ばれて1】
◇かつて聖女と呼ばれて1◇三人称視点
ここは、いったい何処なのだろうか。
ガタゴトと揺れる女性の視界に映る景色は、ようやく外に出て見る事が出来た新鮮なものだった。
数年、閉じ籠もり
「――レフィル様、お食事をお持ちしました」
「……」
カチャ――と、トレーが置かれる。
揺れる視界の正体。
ここは、馬車の中なのだ……置かれたトレーの上には、硬いパンと冷たいスープが。
それは女性の隣に置かれ、その女性の正面にはトレーを置いた女性が座った。
「……」
「お気に召しませんでしたか?」
女性……元・騎士のカルカ・レバノスは、女性に心配そうに言う。
しかし対面の女性――聖女レフィル・ブリストラーダは。
「いいえ……ありがとう、カルカ」
そうか細い、しかし優しい声で答えてパンを持った。
しかしパンを運ぶ手は震え、照準も定まらなく、上手く口元に運べない。
「代わりますね。はい、どうぞ……」
カルカはパンを受け取り、ちぎって口へ運ぶ。
「……ありがとう、ありがとうカルカ」
聖女の顔は、口から上が黒いヴェールで
黒のヴェールは、金具や装飾で少し変わった帽子のようにも見え、外れないように工夫もされていた。
「……」
(どうしてこのようなお姿になってしまったのだろう……この人は、団長を苦しめているはずなのに、それなのにどうして……私はここまでしてしまうんだろう)
彼女の心情を読み取れば、それは同情になるのだろう。
まるで覇気のない表情、廃人のような生活をしてきた数年は、おいそれと口には出来ない。
それでも必死に、時折見せる、生にしがみつくような聖女の執着心は……カルカ・レバノスの心に刻まれていた。
――そしてそれは、
「……」
まるで小さな村の戦士のような、そんな皮の服と軽装。
以前の装備品は、この数年を生き抜くために売り
それは部下のカルカ・レバノスも同じで、悪く言えば
「もう直ぐだ」
ボソリと
無精髭も生え、さながらワイルドなイケメン野盗のようにも取れる。
野盗は少々言いすぎだろうか……
「……カルカ、聖女様のご準備をしてくれ」
後ろの馬車内に声を掛けると、小さく「はい」と聞こえた。
こうして旅をして数ヶ月。三人はひっそりと、そして慎重に馬車を進め……現在、帝国の中央部――【アーゼルの都】へと辿り着いた。
「ここが【アーゼルの都】か、帝国でも有数の都市の一つ……最近は、【アルテア】とか言う、あの少年……いや、今はもう大人か。彼が起こした場所に物資を提供しているという都」
馬車を降り、その高い防壁を見る青年。
金髪に緑色の目は、ミオ・スクルーズを思い起こさせる風貌だ。
彼の名はアレックス・ライグザール……まさか【アルテア】から、自分の捜索の依頼が来ているとは、思っていないだろう。
「……団長、せい――いえ、レフィルさんの準備、完了しました」
「ああ。カルカ……彼女への配慮は良しとして、僕の呼び方もそろそろ定着させてくれ。団長では、もうないのだから」
そう
別に怒ってはいない。ただ、
「あ、すみません……ア、アレックスさ、ん」
まだぎこちないが、それでも努力はしているつもりのカルカ。
「ああ、それじゃあ行こうか……ディルトンも待っている」
「はいっ」
カルカに手を引かれ、聖女……レフィル・ブリストラーダも弱々しく歩く。
「……」
【アーゼルの都】には、既に仲間が潜入している。
【ブリストラーダ聖騎士団】だった彼の部下、つまりカルカの同僚だ。
このような潜入などなど、あの日豊穣の村での戦いを生き延びた彼らは、こうして細々と活動していたのだ……何かから逃げている事は事実だが、しかし何から、誰から逃げているのかは、本人たちも定かではない。
「……」
その瞳の奥に灯る静かな意思は……数年の時を経て、今目覚めようとしていた。
それは、再びの悪意となるのか……それとも――
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