プロローグ2ー2【未来への遺産2】



◇未来への遺産2◇


 アレックス・ライグザールを探して欲しい。

 管理者室に訪れた女性……セシリー・メラ・セドリタさんはそう言った。


「アレックス……ライグザールだって?」


 思わず感情が爆発しそうになる名前だったが、なんとか抑えた。


「――はい。彼は私の大切な……家族です。【ステラダ】のお屋敷で、私は彼のお世話をしてきましたが……聖女様の騎士となった彼の動向は、こちらでは分かりません。ですが、お屋敷は取り潰され、【ステラダ】も無くなり、女王国も崩壊状態で……」


 聖女レフィル・ブリストラーダの騎士となったあの男は、彼女と共に逃亡した。

 数年前に豊穣の村を襲い、土壌や畑を全滅させ……生き返る事のない死んだ土地に変えてしまった、聖女の軍。

 おそらく、いや確実にアレックス・ライグザールも、聖女に操られていると思った。

 しかし、その後の動向を知らないのは……こちらも同じなんだ。


 俺は、あくまでも冷静に心がけて言う。


「悪いけど、その男の事は……あれ以降の詳細は知らないですよ。あれから目撃情報も出てないし、まだ彼が聖女と一緒かも……分かりません」


「はい、それを承知で……頭を下げに参ったのです」


 あの男……ここまで思ってくれる人が居て、どうして執着を持たない人生してんだよ。ミーティアの事もだし、父親の事もだ。

 一言……言ってやりたい思いもあるが……だが。


「すみませんが、難しいですよ。いくら頭を下げられても」


 これはこの人だけじゃない。

 さっきこの場に居たファイアと言う精霊も同じだ。

 それだけじゃなく、個人的な頼みをしてくる人たちも……総じて断っているんだから。


 未来に残す遺産は、この【アルテア】や【AROSSAアロッサ】、最先端の知識や機械など様々だ。

 だけど、遺恨いこんは残せない。


 精霊とのいざこざ、貴族とのしがらみ

 個々の願いを聞いて回るような、個人的な動きを見せたらキリがない……理解はして貰えるはずだ。


「はい、分かっています。私も今は、【ステラダ】から移住してきた貴族……オーバ家に仕えるメイドでしかありません――ですが」


「?」


 彼女の顔つきが真剣になった。

 物腰柔らかな印象は崩れ、その視線は恨みを込めたような、そんな憎らしいものを見るような印象に変わった。勿論、俺にではなく。


「私は、アリベルディ・ライグザールの秘密を知っています」


「……」


 ピクリと、俺は瞳が揺らいだだろう。


 そう来たか。予想外だな畜生ちくしょう

 だが、彼女の言葉に確証はない。よしんば本当だったとしても、どれほどの物かも分からない。リスクのほうが大きいぞ。


「もし、彼を捜索してくれるのなら……私は、旦那様……彼の父、アリベルディ・ライグザール様の秘密をお教えします」


 真剣に、俺からの視線を外さずに述べるセシリーさん。

 嘘では……ないと思う。思うが、どうする……どうすればいい。


「詳細は?」


「……探すとお約束いただければ、今直ぐにでも」


 今やあの男が、この【アルテア】の共通の敵。

 それは、ここに住まう全員が共有している情報だ。

 そして秘密……もし転生者絡みの事だとして、あの男が転生者だ……などという事なら話にならない。


「――あのオッサンが転生者……ってのは無しですよ?」


 知っている情報だと意味がない。

 少なくとも、俺たちが持っていない情報でないと。


「はい。存じております……では、彼が何百年も前から生きている理由。ただの天族である彼が、生きている理由は……いかがでしょう」


「!!」


 そうだ、あの男は先代アイズレーンの転生者。

 それはもう千年近く前の出来事であり……天族、つまりは人間族とそう変わらない寿命だ。それが、この世界でまだ生きている理由……何度も転生しているのは知っているが、その秘密?

 当代のアイズレーンに変わってからは転生できていない……だから、あの男が今も生きているのは不自然なんだ。


「……」


「……」


 この空気、久しぶりに感じる。

 チャンスとピンチ、選択によってはどちらにも転びかねない……そんな感覚が肌を包む。間違えば、アイツを倒す手札が減る可能性もある……ああもう!


「……分かりましたよ。俺の負けです……さっき他の人の頼みを断った手前、今直ぐとは言えませんけど……約束しましょう。必ず、アレックス・ライグザールを探してみせます。それでいいですか?」


 セシリーさんはニッコリと笑い。

 まるで勝ったとでも言わんばかりの笑顔を俺に向けて言う。


「はい、それではよろしくお願いいたしますね、ミオ様」


 そう述べた。なぁ、俺、負けたのだろうか。

 俺さ……マジで年上に弱いよなぁ。




 直ぐに、セシリーさんは退室した。

 その話は後日にしてもらったよ……流石にカロリー使ったわ。

 それに、約束をしたんだから話は確実に聞ける。

 俺が約束をたがえる可能性もあるし……だから先に、あの男を探す事も視野に入れなければ。


 俺は、また厄介な事柄を招きそうな事態にため息をく。


「はぁ……また疲れそうな案件だなぁ」


 しかしながら、アリベルディ・ライグザールの情報は喉から手が出る程に欲しい。

 あのオッサンはミーティアを求めてる。その父ダンドルフ・クロスヴァーデンも。

 でもって、アレックス・ライグザールを探すとなると……聖女も当たり前に付いて回るだろうからな。


「はぁ〜〜〜〜〜、また盛大に疲れそうなんだがぁぁぁぁ!」


 未来に残す正しい選択。

 その遺産を築く為に、俺は今日も頑張るのだ……それが、沢山の人たちの未来に繋がるんだからな。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る