第二章【故に至る者は救われない】

プロローグ2ー1【未来への遺産1】



◇未来への遺産1◇


 あれから一ヶ月。


 俺が開発した、成長拡張型多目的端末――通称【AROSSAアロッサ】。

 通話機能に成長アシスト、転生者のような能力、魔力を持たなくても使える魔法、そして精霊との契約。

 それらの機能がふんだんに搭載された携帯端末が発表されて、三国国境の村【アルテア】では、その話題で持ちきりだった。


 魔力を持たない者、転生者つよいひとに憧れる者、精霊との契約を望む者。

 各々が持つ理想の為に、【AROSSAアロッサ】を求める人は日に日に増えている。


 でもってこれらは基本的に、戦闘や守護を重きに置いて購入する人たちが多い。

 しかしそれでも一般人。金銭面での余裕がない人たちだって【アルテア】にはいる。

 なんたって結構な高額商品だからな……普通に考えて、一般家庭の給料で買える値段ではない。


 だからこちらとしても考えた。

 【アルテア】では全土に普及したいと考える……そんな俺、ミオ・スクルーズの考えは甘いと、大勢の仲間もそう思っているだろう。

 だけど、これは布石なんだ。何度も使う言葉にはなるが……未来への布石、未来に残してあげられる物。それが【AROSSAアロッサ】だ。


 いずれは低価格、もしくは収入のアップなどで手軽に買えるものにしたいんだよ。

 しかし、生産するのは目下俺一人……正直言って――かなりキツイ!!


 【拡張かくちょう】という能力に目覚め、魔力が飛躍的に増加したとは言え、一日に【複写ふくしゃ】出来る回数には限度があるからな。

 色々考えなければならない事が山積みだ。


 精霊の事に関してもだ。【ヌル】に力を注いでくれる協力的な精霊は多い。その分、【アルテア】で魔力を与えているし、対価もきちんと払っている。

 けれど、ノラ精霊……彼ら彼女らは、この一ヶ月で大幅に増えてきていた。


 更に、他国……帝国、女王国、公国以外の他の国でも精霊との契約は進まれているようで、その実用性と戦略性は大きな武器として見られていた。

 結果……他国では精霊を無理矢理――捕獲、拉致らちするという事件が増えた。

 中には、監禁をして無理矢理契約をさせるといった、そんな最悪な噂まで出てきている。


 これを聞き激怒したのが、【アルテア】で保護している精霊たちだった。

 俺の契約精霊フレイウィ・キュアを始めとした多くの精霊が激怒し、そして俺に助けを求めたんだ。


「――お願い!ミオ様……仲間を助けて!!」


 そう土下座で懇願するのは、【炎の精霊】レミール・ファイア。

 女性型の精霊で、【ヌル】に力を注いでくれた協力的な一人だ。


「頭を上げてくれ、レミール。君は確か、まだ契約者がいないんだよな?」


「そうですけど、でもそんなのいいんです!ボクは仲間を助けたいんですよっ」


 赤い髪を床にだらりと下げ、言葉を発するフレイム。

 これで連日五日目、結果的に言えば……その願いを、俺は断っていたんだ。


「何度も言ってるけど、他国との問題は大きく出来ないんだよ……これが帝国内、公国内、女王国内だったら話は別だけどな。でも噂の出処は小国……簡単には行けないんだよ、今の【アルテア】じゃあ」


「それは聞きました!そこをなんとか、なんとかお願いします!!」


 【アセンシオンタワー】の五十階、管理者の部屋で二人きり。

 女性に土下座させてる俺……情けねぇしダセえ。

 しかしその要求は飲めないんんだよ、今の現状じゃあな。


「――無理だ。いざこざになれば、積み上げたものが崩れる。それは君たち精霊との関係も同じ、捕まってる精霊を助けなくても関係が崩れる……そう言いたいだろうが、今この塔にいる精霊全てが君と同じ考えじゃないだろ?」


「それは……はい」


 そう。千差万別の考えは、精霊でも一緒。

 捕まった仲間を助けたいと思う精霊もいれば、今のこの関係を保ちたい……争いたくないと思う精霊もいるんだ。


「捕まってる精霊たちの事は、フレイ……【治癒の精霊】キュアとも考えている。だからもう少し待ってくれないか、レミール・ファイア」


「……はぃ」


 そう力なく返事をして、レミールは去っていく。

 心が不安定になっているな……拠り所を与えられれば良いんだが。

 契約者、探すべきか。


 眉間にしわを寄せて、俺は書類に視線を送る。


「はぁ……次々と問題が起きる。どうしろってんだよ……」


 コンコン……とノック。

 俺はまたレミール・ファイアが戻ってきたのかと身構えたが。


「――失礼致します」


 ん?聞き覚えのない女性の声だ。

 優しい声音で、落ち着いた感じ。魔力は……ないな。

 でもここに来れる一般人?……いたか、そんな人。


「ど、どうぞ」


 何だか緊張した。

 それがこの先に、何か途轍とてつもない影響を与えそうで。


 扉が開き、そこには。


「突然のご訪問、大変失礼致します……ミオ様」


 メイド服を来た、中年……いや、もう少し若いか。

 しかし優雅なたたずまいだ。


「えっと、そちらは?」


 メイド服を着用しているということは、どこかの屋敷務めなんだろうけど。

 確かこの服、以前の女王国で使用されていた物だ。


「はい、私は……セシリー・メラ・セドリタと申します」


 セシリー・メラ・セドリタ、さん。

 やっぱり聞いた事も見た事もないが……でも、この視線……何か懐かしいものを見るような、そんな視線を俺に送るこの人。

 この管理者室に来れたという事は、主要メンバー、もしくは【ユニバース】の誰かしらから許可を貰ったという事……今日は下に、【ユニバース】の人が居たはずだ。


「セシリーさん、でしたか。本日はどういった要件で?」


「……やっぱり、似ていますね」


「え?」


 俺の髪を、目を、そして顔を見てつぶやく。

 その言葉の意味、俺に似ている人物……それは。


「私は……アレックス・ライグザールの乳母です。ミオ様……貴方様に、彼を探して欲しいと、懇願こんがんしに参りました」


 深々と頭を下げ、彼女はそう言った。

 アレックス・ライグザール……聖女レフィル・ブリストラーダと共に消えた青年。

 現在最大の敵である……アリベルディ・ライグザール、その男の、息子を探して欲しいと。

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