1ー52【成長拡張型多目的端末3】



◇成長拡張型多目的端末3◇クラウ視点


 弟が、何だか物凄い事をしだしている。

 入口で私たちが見ている事にも気付かず、真剣に、独り言を言いながら作業をするミオ。


「――あれ、もしかして携帯電話?」


「けーたい?でんわ?ミオはデバイスって言っていたわよ?」


 私、クラウ・スクルーズとミーティア・ネビュラグレイシャー。

 仕事を終えた彼女と合流し、【アセンシオンタワー】の【工房】(四十二階)に来てすぐ、ミオが【無限永劫のうりょく】で金属を加工し始めた。

 その形状が、地球では当たり前のように普及されている携帯電話のような形に見えて、私は「やってるわね」と声を漏らした。


「デバイスは名前じゃなくて、装置の総称の事ね。あんな機械の事をまとめて、デバイスって言うのよ」


「へぇ、あんな物が幾つもあるのね……参考になるわ」


 携帯電話やパソコン、タブレットなどね。

 しかし、ミオもどうして急にこんな事をしだしたのかしら。


「ねぇミーティア。あれを売るつもりなんでしょ?」


 入口から見ている私たち。

 隠れているつもりはないんだけどね、ミオは一向に気付かないわ。


「そうね。ミオは多分、【コメット商会】の一手として考えてくれてると思うけど……それだけじゃない気もするわ」


「……そうね、私もそう思う」


 なんだか、下準備にも似た感覚だった。

 それも盛大な、何年、年十年も時間を掛けた、途方もないフラグのような。

 あれを世界に広げて、ミオは何をしたいのかしら。


 「ハッハッハッハッ!」と変な笑いが聞こえてくる。

 テンションがおかしいわよミオ……疲れてんじゃないでしょうねぇ。


 そんなミオを見て、ミーティアはクスクスと笑みをこぼす。


「ふふふっ……昨日アイシアとお出掛けしてきてから、ミオは凄く上機嫌でね……本当によかった」


 ミーティアが微笑ほほえみを浮かべている。心配事が解消されたような、そんな安心した笑顔で。

 でも……アイシアは仮にもライバルだったのだけど、本当に後悔しない?嫉妬しない?

 恋愛感情はなくても、仲良くするのよ?私だったら、正直嫌よ。


「それでいいの?」


「勿論よ」


 ミーティアは考える間もなく答えた。

 はぁ〜……分からないものだわ、本当に。


「……」


「あ〜、心の中でため息いたでしょ。顔に出てるわよクラウったら」


 ど、どうやら顔に出ていたらしいわね。

 だけど、これは私の本音だわ。もし、もしもよ?未来でミオとアイシアが、男女の関係にでもなったら、どうするの。傷つくのはミーティアなのよ?


 そんなミーティアは。


「私ね、二人の関係がうらやましかったの……昔から、ずっといいなって思ってた。幼馴染って、私いないから」


 この言葉に偽りはないんだろう。

 だけど、その関係性を保たせるのは難しいと思うわ。

 男と女、一度ひとたび何かがあれば、一気に進展してしまう。

 ミオに限ってそれはないと信じているけれど。


「ミオがあのデバイスを完成させて、私が商会で売る……この【アルテア】でも販売はするでしょうし、この東大陸だけじゃく、西大陸や南の【ラウ大陸】でも……可能性はなくはないと思うの」


「期待はし過ぎないようにね」


 外れた時、ガッカリするでしょう?

 だったらあくまでも興味無いフリをしておいたほうが、あちら側もやりやすいでしょうし。


「ふふっ……クラウは優しいわね」


「……」


 この子、最近ドンドン色気が出てきてる。

 身振りが大人と言うか……つやっぽいのよね……


「あ、ミオがフラフラしてる」


「ん、あ〜あ……部屋中にコピーしてるじゃない。加減を覚えろっていつも言ってるのに」


 いつの間にか、【工房】中に携帯電話……じゃなくて、デバイスの材料が部屋中に敷き詰められていた。調子に乗って【複写ふくしゃ】しまくったのね。


 私とミーティアは、フラフラなミオのもとへ。

 足元に気をつけながら慎重に。


「ほらミオしっかりして!私たちも手伝ってあげるからっ」


「……まったく、馬鹿なんだから。こんなもの創っちゃって……本当に神様みたいな事しだしたわねあんた」


 これは、まだまだ未来さきの世界。

 このミオ・スクルーズが神王となり、この世界を見守る存在と成る序章。

 世界に銃器が誕生し、精霊という種族が解放され――そして次世代の戦術兵器、【AROSSAアロッサ】が生まれた瞬間。


 彼と私たちの物語は、まだ途上なのだから……

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