1ー51【成長拡張型多目的端末2】



◇成長拡張型多目的端末2◇


 【アセンシオンタワー】に戻り、俺は早速デバイスの改修にかかる。

 イリアの情報を登録した端末は、もう他の人に使用出来ないからな。

 二台の内のもう一台、それを完成形にしなければ。


 イリアの実験をかんがみて。


「うーん、駆動音は鳴るとしても、デカい音は無しだな。隠密任務とかに使えなくなる」


 台に乗る二台。

 イリアに渡した方の端末から【ヌル】を外す。


「凄い力だったな。回復の力……現状クラウ姉さんだけが持っていた神秘。転生の特典ギフトの力ではあるけどな」


 それがくつがえったんだから。

 しかもそれが、世界中からけなされる存在だったハーフの女性。

 キルネイリア・ヴィタールという女性の手で、世界に回復のすべが誕生したんだ。


「【アセンシオンタワー】の投影機があれば、それを公表出来る」


 そうなれば、大陸中に宣伝をかけられる。

 必然的に注目されるだろうし、ハーフの人たちも自分に価値が見いだせる。


「そうすればもっと人が集まるし、クロスヴァーデン商会への牽制けんせいに……いや、挑発か?」


 大陸にいるかも怪しいアリベルディ・ライグザールとダンドルフ・クロスヴァーデンの二人。近隣の小国が集まっている事を考えれば、大陸の何処かにいるのは確実だと思うんだがな。


「【無限永劫むげん】!」


 【サクレー港】から持ってきたアルミに似た金属。

 それを変形させ、取り敢えず同じデバイスの形を揃える。


「【創作そうさく】!!」


 更に手をかざし、【Aキューブ】と【Mキューブ】を創る。

 大量に、机一杯に生み出す。


 そして箱にこんもりと重ねられた【銀星鉱石シルヴァライト】を取り出し、それを【無限永劫むげん】で成形する。

 現状のパーツはこれで全て。これに、試作型の問題点を洗い出して追加パーツを決める。


 ライトや感知板も、後から追加しなければならないが。

 腕を組み、考える。


「音響制御とライト……それに個人登録の為の感知板。後は【キューブ】同士、【ヌル】を接続する基盤の強化だな」


 デバイスの中には板状に加工された、ベースとなる【銀星鉱石シルヴァライト】がある。

 そこに接続することで、【キューブ】からは能力を、【ヌル】からは精霊の力を引き出せるという仕組みだ。


「パーツを追加すると、サイズがデカくなるかもなぁ……」


 【銀星鉱石シルヴァライト】の基盤が思ったより大きい。

 内部構造を追加するとなると、サイズの変更も視野に入れねば……地球の携帯電話とか、毎年のように小型化だったり薄くだったりしていったの、スゲェんだな。


「……」


 そう思えば、神経を研ぎ澄ませばいける気がしてきた。

 パーツを最小まで小型化し、能力はそのまま……そうすれば、もっと多くの機能を搭載できるだろう。

 ただ、売り出す前にそれをしては……


「そうだよな。今はこのままだ……次世代に託すさ、そういうのは」


 俺はゆっくりと首を振り、俺の行動はきっかけに過ぎない事を自覚する。

 世界はきっと進歩するはずだ。何事もきっかけ次第、それが俺だ。

 いずれこのデバイス――【AROSSAアロッサ】も、小型化だったり薄型だったり、進化して行くことを願うさ。


「……だから今は、目の前を見よう。俺たちが始めたこの【アルテア】という場所を、世界の中心にするためにっ」


 部屋中に広がる【無限永劫むげん】の光を、希望の光に例え……俺は現状のまま【AROSSAアロッサ】を完成させる。

 サイズは手の平よりも大きい二つ折り。開けば成人男性の拳、四個程だ。

 【ヌル】の装着は下部(基盤)に、二種の【キューブ】は上部(開く方)に装着する。


「後は防音素材と、魔力電光を【創作そうさく】して……」


 これで試作型は、全てのパーツを完成だ。

 試作第二弾。十五機が組み上がる。


「これは、【アルテア】主力の人たちと、【ユニバース】のメンバーに試してもらおう……イリアのおかげで、起動だけは誰でも出来る事が確定だしな」


 後は、塔の中で生活している精霊たちに協力してもらって、【ヌル】に力を封じてもらう。そして能力と魔法の【キューブ】をそれぞれ【創作そうさく】し、販売できるようにすればいい。


 これで俺の、大人になって初めての仕事は完了だ。

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