1ー50【成長拡張型多目的端末1】



◇成長拡張型多目的端末1◇


 ザシュ――!!


「ひぃや!!ミ、ミオぉ!?な、何てことをっ!!ど、どうしま、どうすれば!」


 イリアが気付き止めに入る前に、俺はハズレ転生の特典ギフトの剣で腕を斬り裂いた。血が滴り、庭の地面を赤く濡らす。

 顔を青くして焦りだすイリアに、俺は気楽に言ってのける。


 フレイにバレたら怒られるだろうな。「オコだよ」って言ってたし。


「安心しろって、これが実験なんだから。大丈夫、痛くないよ」


 そもそも【哀傷あいしょう】の効果で切り傷の痛みは無い。出血は防げないけど。そしてこの馬鹿に見える自傷行為をした理由は、イリアの持つデバイスにセットされた【ヌル】の効果を発揮させるためだ。


「で、でもですねぇ!?」


 腕の傷と俺の顔を交互に見るイリア。

 パッ!パッ!パッ!と上下に行ったり来たり、心配しすぎだって。


「いいから、ほらデバイス起動して!今だけは……「起動」って言えば動くからっ」


「で、ですが……あーもう!分かりましたよ!!き、起動して下さい!!」


 登録情報を元に、デバイスは起動する。

 セットされている【ヌル】は一つだけだ。【治癒の精霊】、フレイウィ・キュアの低レベル回復の力を注入した、下位ブロンズの【ヌル】だ。


 ブゥン――と小さく駆動音。

 正式型では音が鳴らないようにしないと。バレるし。


「よし、上手く起動したぞ!!伝わるだろ、使ってみてくれ!」


「え、え、ええ!?でも、なんだか……初めての感覚で怖いのですが!!」


 今度はデバイスと俺で視線を行き来、忙しいですねイリアさん!


「初めては皆怖い!!一瞬で終わるからやってみろ!!使い方は、もう伝わってるはずだぞ!!」


 「ひぃ……」となりつつも、デバイスに手をかざすイリア。

 ダラダラと血を流す俺の腕を見ながらも、その機器から発せられる感覚に。


「えっ――この感覚……もしかして、これが魔法??」


 本当に少しだが、冒険者学校に通っている時にイリアも魔法に触れている。

 しかし使用は出来ないからと、諦めていた。

 確か、イリアのお母さんが風の魔法を得意とした冒険者だったはず……才能は眠っていると思うんだよ。


「そうだ!今こそ、イリアの中にあるエルフの血を……お母さんと同じ魔法の力を使うんだ!!」


「私の……血の!!」


 【ヌル】がパッ――と光る。

 将来的には、デバイスを隠していても起動できるようにしたい。

 所持はしていないと駄目だが、懐だったりポケットだったり、鞄だったり。

 戦いやすいように作りたい。


「ミオの……傷を癒やして下さい!!――【ヒーリング】!!」


 それが名前か!

 文字通りの回復系魔法、精霊キュアの力の具現化。


 デバイスとイリアの手の周囲に同様の魔法陣が出現し、リンクしているのが分かる。成功だ、さっすが俺!!


「お!お〜〜……傷が塞がってく。でもあれだな、フレイよりは遅めで、クラウ姉さんのともまた違う」


「す、すみません……失敗、でしょうか」


 不安げに俺の顔を覗くイリア。

 ごめん、そうじゃないんだ。


「いや、違うよ。大成功さ……その【ヌル】は元々、下位の治癒しか使えないからな。だから抽出元のフレイや、転生の特典ギフトのであるクラウ姉さんのとは当然レベルが違うんだよ。だから、イリアが失敗したんじゃない……使えているよ、魔法を」


「……そう、なんですね……」


 その真実に、涙を浮かべる。

 もう、誰も君を半端者だなんてさげすまない。

 このデバイス……【AROSSAアロッサ】があれば、きっと。


「治った。十五秒くらいだな」


 腕を確認すると、傷は綺麗に塞がっていた。

 イリアが、タオルで血を拭いてくれる。

 よく、回復したら血までなくなるアニメとかあったけど……それはなかった。


「で、魔力の消費とかはどうだ?」


「特段、疲労感はありませんけど」


 そうか。ならデバイスの内部の【Mキューブ】が正常に作動しているんだな。

 俺は【Aキューブ】の他にも、魔力を貯蔵できる【Mキューブ】を追加で設置していた。

 それにより、それを交換することで代わりに魔力を消費できるんだ。

 携帯電話で言うところの、充電のようなものかな。


「よし!ありがとうな、イリア。魔力とかの不安定さを考えての実験だったけど、問題なくどころか、最高の結果になったよ!」


「それはよかったです!私も、母に少し近付けて嬉しかったです!」


 こうして、最初の実験は成功に終わった。

 俺はイリアに礼を言い、試作のデバイスを回収して退散する。

 因みにこのデバイスはイリアのパーソナルデータを登録してしまったから、完成したら正式版をイリアに寄贈すると約束した。


 さて、次だ!!ドンドン行くぞ!!

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