1ー50【打倒クロスヴァーデン商会7】



◇打倒クロスヴァーデン商会7◇


 俺の頼みを、イリアは真剣な表情で聞いてくれている。

 自分の中でも葛藤かっとうがあるだろう。それなのに、俺に手を差し出して、その言葉を言ってくれる。


「分かりました……やります、私!」


 瞳に浮かべる涙。

 イリアも望んでくれたんだろうか、この装置がもたらす、未来の光景を。


「本当か!?いやでも……自分で頼んでおいてなんだが、危ないかも知れないし……もし起動も出来なかったら、ぬか喜びさせてしまう可能性も――」


 言い出しっぺのクセにチキっている俺。

 俺がテスターにはなれないから、不安なんだ。

 だけど、イリアは笑顔で言ってくれる。


「私がミオを信じないだなんて、そんな事はありませんよ。それで、これは……わっ!開いたっ!?」


「イリア……助かるっ」


 試作型デバイスは、やけに機械っぽく作られている。

 俺が地球の携帯電話をモチーフに作ったからだが、その大きさは二倍もある。

 だから携帯電話というよりも、やはり装置が正しい気がする。


「これは、石ですか?もしかして……」


 イリアは装置下部の【ヌル】を見ている。


「そう、それが魔法を使用可能にする……【ヌル】っていう石だよ。もう少し時間が経てば、能力……俺たち転生者にも似た能力も、イリアの【念動ねんどう】のような力も引き出せるようになる予定だよ」


 精霊の力が込められた、神秘の石。

 不可能を可能にする、革新の装置。


「これで魔法を、能力までですか……まるで、【神の花嫁アロッサ】ですね」


 アロッサ……ん?聞き覚えが。


「!?……あれ、それって確か……」


 えっといつだった?

 聞いたなその言葉……結構昔だ。

 思い出せ思い出せっ。


 思い出そうと首をひねる俺に、イリアは。


「この装置があれば、ミオたちのような【神の花嫁アロッサ】と、同じ力を使えるんですね、凄いです!」


 俺たちと同じ。

 つまり転生者――そうだ!ジェイルとクラウ姉さんが戦った時だ!!

 だいぶ昔だったな。


 エルフ族の間では、転生者の事を……神に愛された存在、男も女も総じて花嫁。

 そう呼ぶという事を言っていたな。


 そうだった、その時に初めて聞いた言葉だ。

 確か、アラビア語だったっけ……花嫁って意味の。

 でも凄く、しっくり来る。


「じゃあ、このデバイスの名前……それにしようか」


「――え!!えぇぇぇえ!」


 自分が名付け親になった事になのか、それともこんなにもあっさりと決定した事になのかは分からないが、イリアが目を見開いて驚いた。

 無理もない。唐突すぎるし、俺もこんなにあっさりで良いのかとも思う。


「そんなにおどろくなって、イリアがこのアロッサの命名者だぞ?誇って良い」


「そそ、そんな!恐れ多いですよぉぉ!」


 でもそうだな、表記は変えようか。

 【神の花嫁アロッサ】……アロッサ。

 スペルはAROSSA……かな?よし、【AROSSAアロッサ】で決定だ!!


「さぁさぁ、実験を始めよう!」


 あれだけ考えて、成長とか能力とか、魔法とか通信とか。

 色々詰め込んで名前をつけようとしたのに、こうしてあっさりと決まっちゃうんだから面白い。


 そうだよな。転生者はそれらを全て兼ね備えている。

 なら、転生者を古くから【神の花嫁アロッサ】と呼んでいるんだ……その方が謳い文句キャッチフレーズにもなる。


「もう!もっと説明してくださいよぉぉ!」


「ははははっ!いいからいいから!もう決まった事なんだし、ノリでやってこうぜ!!」


「ノリじゃ不安すぎますぅぅ!!」


 変なテンションになった俺と、不安げなイリア。

 安心しろって、俺の中の不安はもう完全に払拭された。

 絶対に失敗はない。これは確定事項だ。




 落ち着いて次の行動へ。


「そ、それじゃあ……えと、どうすれば?」


 気を取り直して、イリアは【AROSSAアロッサ】を手に持ち開く。

 まずは起動者の登録だ。


「デバイスの登録は、血で行う。ちょっとチクッとするぞ」


「――え」


 俺はイリアの反対の手を取り、ツン――と指で弾く。

 すると、プツ……と針で刺したような血がにじんだ。


「わぁぁぁぁぁぁぁ!!こ、心の準備をさせてくださいよぉぉ!!」


 突然の出来事に、大きな声を出すイリア。


「ははは、怒るな怒るな。はいそれじゃあここにその血を垂らして。指で触ってもいいよ」


 最も情報が採取できるのは血液だ。

 この異世界ではDNAの他に、魔力の情報なんかも読み取れるからな。


「こう、でしょうか」


 いじいじと、イリアは恐る恐るといった感じで行う。


「そうそう。それで後は、内部の【銀星鉱石シルヴァライト】が読み取ってくれるよ……後は待つだけ。上の方に小さく見えるライトが光るから」


 「へぇ……」と興味津々のイリアを他所よそに、デバイスの上部についていた魔力電光が光った。それが合図だ。


「よし、登録完了だ。後は……」


「え??」


 イリアは突然戸惑いを浮かべる。俺を見て、ぎょっとした視線のまま。

 何故ならその理由は、俺が右手に剣を出現させ……自分の腕にあてがったからだ。

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