1ー49【打倒クロスヴァーデン商会6】



◇打倒クロスヴァーデン商会6◇


 屋敷に入ると、複数のメイドさんが出迎えてくれる。

 皆揃って「「「「いらっしゃいませ!!管理者さま!!」」」」と、大きな声で。


「あはは、どうも……」


 こういう扱いは、正直苦手だ。全然慣れないし、むずがゆい。

 前世の事から考えれば、俺は上に立てるような人間ではないと思っていたし、こうして異世界で【アルテア】なんていう大きな村おこしを成し遂げた事にも、未だに疑問を持っているからだ。自分の中でな。


「――ミオ!!」


 室内を歩いていくと、一人目立つ女性がそこに居た。

 黄緑色の髪の毛が長く、メイドの中でも滅茶苦茶美人な女性だった。


「イリア、久し振りだなっ」


 その女性が勢いよく駆けてくる。

 廊下に飾られた骨董こっとうを磨いていたのだろうが、凄い量だな……これは、また買ったな?


「本当にお久し振りですぅ!!わぁ……また大きくなりましたか?」


 俺の周囲をくるくると回って確認する。


「ははっ、流石にもう変わんないって。成長期は終わったよ」


 彼女はイリア。

 キルネイリア・ヴィタールという俺の友人だ。


「それでも旦那様より大きいですからっ!格好良いです!!」


 ロッドさんと比べちゃうなよ。

 あの人だってまぁまぁ高身長だぞ?しかも貴族。

 魔法も使えるし、【クレザースの血】なんて特殊能力も持ってる……あ。


(こういう特殊能力も、抽出ちゅうしゅつできるのか……?だとすれば、【Aキューブ】に封じ込めて使えれば……)


「ミオ??どうかしましたか?」


「――あ!い、いやなんでもないよ。ごめんごめん」


 今はよそう。今日はイリアに頼みがあって来たんだから。


 魔力の低い人物が【ヌル】を使用する実験。

 だからこそ、このイリア。

 俺が選んだ理由……何故ならこの女性は、ハーフエルフなんだ。


「今日はどうされたのです?旦那様なら会議中で……」


 くるりと回転すると、髪のサイドが浮く。

 そこには、人間族の耳より少しだけ長い耳があった。

 エルフ族とのハーフの証だ。


「いや、イリアに頼みがあってさ。悪いんだけどさ、お願いでき――」


「――はい!」


 食い気味に即答だ。いいのかねこんなに信頼されてて。

 でも、今回の頼みはイリアにとっても意味のあるものだと思うからな。


 先も言った通り、彼女はハーフだ。

 この世界でのハーフの扱いは非常に悪い。正確には悪かった……だが。


 ハーフの種族は、基本的に元の種族よりも劣化するんだ。

 イリアの場合エルフ族とのハーフだから、母親であるエルフの高魔力を継げていない。


 しかし、この【アルテア】ではその種族差別は禁止している。俺が禁止した。

 そのモデルも既に出来上がっていて、近々産まれる・・・・予定だ……


「よ、よし、良い返事だ。それじゃあそうだな……庭を借りれるか?それとも【アセンシオンタワー】に行くか?」


「あ、すみませんミオ。私もまだ仕事があるので……残念ですが」


 遠慮気味に、断腸の思いで塔には行けないと言う。


「オッケーだ。じゃあ庭だな、そこで事足りるから大丈夫だよ」


「??……分かりました、どうぞ?」


 疑問符を浮かべるイリアを連れて、正確には連れられてだが、俺はクレザース家の庭へ向かう。




 庭に出ると。


「あれ、庭師をやとったのか?」


「はい」


 庭には作業をする人が数名いた。

 別に見られて困る事はないが……トライアンドエラーは見られたくはないな。


「えっと、悪いんだけど、あの人たちには、ここを外してもらえないか?」


「あ!わ、分かりました……少々お待ちを」


 スタタタ……と駆けていくイリア。

 丁寧に頭を下げて、数名の作業員の仕事を中断してもらった。

 おっと睨まれたんだが……俺が。すまんね、仕事の邪魔をして。


「おまたせですミオ、それで……私に頼みとは?」


 【エッシアース】のクレザース家の屋敷で、その実験は行われる。

 【ヌル】による、魔力が少ない人でも使える魔法……その最初の起動が、ハーフだからとさげすまれて生きてきた女性の手で。


「――これを、使ってみてくれないか」


 俺は渡す。

 試作型のデバイスを。


「小箱?」


 確かに、存在を知らなきゃそうも見える。

 地球の折りたたみサイズよりデカいしな。


「違うよ。これは、この【アルテア】を……いいや、世界に革新をもたらす装置だ。これがあれば、イリアのように魔力の少ない人でも……それこそ魔力のない一般人にでも魔法が使えるようになる……はずなんだ」


「!!……私や、私のような存在ハーフたちも、ですか!?」


「ああ。だから協力をして欲しい、頼む!!」


 危険もあるだろう。なにせ実験だ、しかもまだ試してもいない。

 いきなりイリアに負担をかける事になるが、しかしイリアが使えれば……その保証は確定できる。


 だから頼む、キルネイリア・ヴィタール!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る