1ー48【打倒クロスヴァーデン商会5】



◇打倒クロスヴァーデン商会5◇


 今後、【ヌル】には制約をかける事にしている。

 今完成した治癒の【ヌル】は、ゲーム的に言えばコモン……下位ランクだ。

 加える精霊の力によって色が変わるだろうから、各々おのおの設定しないとだ。


「その石、変な色だね」


 フレイが言う。

 変って……キミの力の結晶ですよ?


なまり色っていうか、コッパーだな。実物は劣化すると変色するから、そこら辺もナイズに言わんとな。色が変わらないように出来ないか」


 ナイズの名を出した瞬間、フレイは眉間に皺を寄せて。


「ムッ、ストーン……あの仮面男」


 【石の精霊】ナイズ・ストーンが仮面を着けている訳ではなく、多分表情を変えないからだろうけど。フレイは頬を膨らませて、ナイズのクールな一面にムッとしている。


「ナイズは無石の力を持ってるからな。だから【ヌル】はナイズにしか作れないんだよ」


「下位精霊のクセにぃ。キュアの方がミオの力になれるし」


 抱きついてくるフレイ。


「うん。それは分かってるって」


 その白い頭を撫でてやる。

 ナイズは、契約者のジェイルが俺に従っている事を知っているから、先行してやってくれたに過ぎない。もしもジェイルが駄目だと言えば、そこまでだ。

 それにしてもだ、ナイズは下位の精霊とはいえ、何もないただの石しか出現させられない。しかしだからこそ、こうして能力やら魔法やらを封じられる。


 それも一種の才。


「ならいいけど」


「はははっ」


 それにしても、だ。

 このコッパーの【ヌル】は区別しやすい。ありがたい仕様だ。

 ナイズには、これの他にシルバー、ゴールド、プラチナ当たりを作ってもらうか。

 四種もあれば、相当な数の種類を作れるだろう。


「銅と青銅を分けるか……」


 銅はコッパー、青銅はブロンズだ。

 一般的にはブロンズが分かりやすいし、ランク付けするならブロンズの方がいい。

 総合してブロンズ、シルバー、ゴールド、プラチナだな。

 ありきたりな冒険者ランクのような扱いだけど、それでも充分活用できる。


「ミオ、これ全部に力を注ぐの?」


 フレイは台の上に無造作に置かれた【ヌル】を指差し、ちょっと疲れ気味に言う。


「いいや、今日のところはこれだけでいいよ。まずは実験だし、それに……」


「それに?」


 回復の力が増えすぎるのも問題だ。

 順番に、バランスよく、考えてやらないとだからな。


「いや、フレイはその都度つど力を貸してくれればいいよ。お礼はするからさ」


 と言っても、お礼は魔力なんだけど。


「……うん。言ってね、いつでも」


 ほがらかな顔で笑う。

 これからはドンドン精霊も増えていく。

 そうなれば、フレイのような回復が可能な精霊も出てくるはずだ。

 少なくともそれまでは、この俺の契約精霊……フレイウィ・キュアが、この世界で唯一の治癒が可能な存在なんだから。


「ありがとな、フレイ」


 ガシガシと撫でられて、それでも笑顔になる。

 「えへへ」と笑うその仕草に救われる……下手をすれば、俺は精霊を悪用する最低野郎だからな。




 一頻ひとしきり観察をしてから、フレイは突然。


「それじゃあ、キュアは行くけど」


「ん、ああ。また頼むな」


 「あ〜い」と、両手をブンブン振って去っていく。


 さてと、俺は次の実験だ。

 完成した治癒の【ヌル】。

 これを組み込んで、回復の力が発動可能かチェックをしなければならない。


「さてさて、誰が良いだろうか」


 そんな考えるような事を言いつつも、俺の中では既に決まっていた。

 誰でも使える……つまりは魔力が少ない、乃至ないしまったく使えない人がいい。

 こんな言い方はあれなんだが、思い当たる節はあるだろう。


「……クレザースの屋敷に行くか」


 クレザース家……元・女王国の貴族。

 今はこの【アルテア】で、公爵の地位を得ている協力者の男性貴族だ。

 【ステラダ】という女王国の街、そこで俺が冒険者学生をしていた一年で出会った人だ。


 【転移てんい】で女王国領――【エッシアース】へ。

 大きな門があり、そこには門番が複数。

 背の高い男と、少しぽっちゃりの少年。


「――こ、これは管理者さま!!ようこそクレザースさまのお屋敷へ!」


「か、歓迎いたちましゅ!」


「どうも」

(少年、噛みすぎだぞ。赤ちゃんかっ)


 この二人はロッド・クレザースさんの部下だ。

 一人は【ステラダ】からの部下で、もう一人の噛み噛み少年は、【アルテア】からの部下だったな。


「公爵さまは現在、会議中なのですが……」


「ああいや、用は違う人にだから気にしないでくれて構わない」


 そう。俺の目的は、そのクレザース公爵に仕えるメイドさん……なんだからな。

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